巻一第十三話 仏が長者の家に行った話

巻一(全)

巻1第13話 満財長者家仏行給語 第十三

今は昔、天竺に満財長者という人がいました。満財には息子がありました。また、須達(しゅだつ、祇園精舎を寄進した)長者という人がありました。須達には娘がありました。

満財が須達の家に行くと、端厳美麗、光を放つように美しい女性に会いました。満財は須達に語りました。
「私に息子があります。あなたの娘を彼に会わせてください」
須達は答えました。
「会わせるわけにはいきません」
「なぜですか」
「私は娘を仏に捧げました。彼女の将来を私が決めることはできません。また、あなたの子は外道(仏教以外の教え)を信仰しています。妻は夫にしたがうのが世の習いですから、結婚すれば彼女も外道に入らなくてはなりません。彼女はそれを望まないでしょう」
満財はそれでも「会わせろ」というので、須達は言いました。
「仏に相談してみます」
須達が仏の御許に参り、このことを申しあげますと、仏がおっしゃいました。
「それはめでたいことではないか。すぐに会わせてあげなさい。私も満財の家に行って、彼を教化します」
満財は言いました。
「須達よ、もし私の息子があなたの娘と結婚したなら、十六里(約63キロ)の道に黄金をしきつめ、さらに七宝(貴金属など)で飾って迎えよう」

須達はついに娘を満財の子の嫁としました。満財は言ったとおり、道に黄金を敷きつめ、宝で飾って迎えました。その他のなにもかもが豪華だったことはいうまでもありません。

阿難

仏は阿難(アーナンダ、釈尊の身辺の世話をした弟子)に言いました。
「おまえは満財の家に行って、その様子を見て、善道(仏道)に入らせなさい。もし入らないならば、おまえを追いだそうとするはずだから、そのときは神通力(超能力)で帰ってきなさい」

阿難は仏に言われたとおり、満財の家に行きました。
家の人が驚いて、
「いまだかって見たことのないような悪人がやってきた。これが狗曇沙門(釈尊)か」
と言い、殴りかかってきました。
満財はこれを制止しました。満財の息子は妻にたずねました。
「この人はおまえの師か」
妻は答えました。
「ちがいます。私の師の御弟子である阿難様です」
夫は言いました。
「この僧は、おまえに思いを寄せていたから来たのであろう。追い払いなさい」
「あなたは本当に愚かな人ですね。この人は迷いをなくし、愛欲の心を離れた人です。帰っていく様子をごらんなさい」
阿難は虚空に昇って光を放ち、神通を現じて去りました。満財の息子はこれを見て、とても不思議に思いました。

仏はその後、舎利弗(サーリプッタ)を遣わしました。満財の子はまた妻に問いました。
「おまえの師はこの人か」
「ちがいます。弟子の舎利弗様がいらっしゃったのです」
舎利弗は阿難と同様、光を放ち神通を現して去りました。  

舎利弗像(興福寺、国宝、奈良時代)

つづいて、富楼那(ふるな、プールナ)・須菩提(しゅぼだい、スブーティ)、迦葉(かしょう、カッサパ)などの弟子が使わされました。皆が光を放ち、神通を現じました。満財とその息子は思いました。
「仏の弟子は神通はまったく優れたものだ。外道の術に勝っている。弟子でさえこれほどだ、師の力はすさまじいだろう。見てみたいものだ」

そのとき、仏が眉間の白毫相(びゃくごうそう)より光を放ち、満財の家を照らしました。東西南北・四維(しい)の方角、さらに上下が、六種に震動し、天より曼荼羅花・摩訶曼荼羅花(まんだらげ、まかまんだらげ。どちらも天上に咲く想像上の花)など四種の花が雨のように降り、栴檀・沈水の芳香が地に満ちました。まさに希有の瑞相をあらわしたのです。

三摩耶外道(さんまやげどう)が満財の元にあらわれ、告げました。
「おまえの家に悪人が来ただろう。おまえも、家に仕える千万の人も、殺害しようとしているのだ。知らないのか」
満財が答えました。
「知りませんでした」
外道は言いました。
「大地は震動し、東西南北が乱れている。天から悪いものが降ってきて、さまざまな悪相を現じている。それを知らないとは!」
満財は言いました。
「私はなぜ私が狗曇沙門に殺されなければならないのですか」
外道は答えました。
「おまえの息子が妻とした女は、既に狗曇沙門の妻となっている女だ。妻を取られて、平気でいられる者がいるはずはないだろう」
「では、どうすればよいのですか」
「その女をすみやかに追い出せ」

満財は息子に伝えました。
「おまえの妻を追い出せ。私の命があるならば、もっと勝れた妻をもらってやろう」
息子は答えました。
「子より父母が先に亡くなるのは世の道理です。父上も母上も年老いています。今年か来年には亡くなるかもしれません。また、私はすこしの間も妻を見ずにはいられないのです。たとえ命を失うことがあっても、たがいに手をとって、いっしょに死にたいと考えています。追い出すことはあり得ません」

外道は息子に言いました。
「軍隊がやって来る。おまえも長者もとらえられるだろう。無益なことだ。自害せよ」
満財は言いました。
「私は五百本の剣を持っている。もっともよい剣をもってこい」
剣をもった満財は従者に言いました。
「私にはどうしても自害できない。私は三百の矛(ほこ)を持っている。剣で頭を取り、矛で腹を刺せ」
従者が剣をふりあげたとき、剣に蓮花が開きました。矛の先にも蓮花が開きました。

そのとき、仏は王舎城耆闍崛山(おうしゃじょうぎしゃくっせん、王舎城霊鷲山に同じ)を出でました。その様子はまったく壮麗で、想像のおよぶものではありません。普賢大士(普賢菩薩)は六牙の白象王に乗り、仏の左方に立ちました。文殊大士(文殊菩薩)は威猛師子王に乗て、右方に立っています。無量無数の菩薩・声聞・大衆が仏につきしたがいました。梵王・帝釈・四大天王、その左右につらなっています。それぞれが従者をつれていましたから、総勢何人になるのか、見当もつきません。

「釈迦三尊像」伊藤若冲 1765 相国寺蔵 左より普賢、釈迦、文殊

仏が満財の家に至ると、満財もその家の百千万の人々も、ことごとく仏を見て、歓喜したと伝えられています。

【原文】

巻1第13話 満財長者家仏行給語 第十三
今昔物語集 巻1第13話 満財長者家仏行給語 第十三 今昔、天竺に満財長者と云ふ人有り。一人の男子有り。須達長者と云ふ人有り。一人の女子有り。 満財、須達が家に行て見れば、一人の女子有り。端厳美麗にして、光を放つ如くして居たり。満財、須達に語て云く、「我が子に只一人の男子有り。汝が娘に会せよ」と。須達が云く、「更...

【翻訳】
草野真一

【校正】
草野真一

【協力】
草野真一

【解説】
草野真一

創価学会員の嫁をもらうために、学会に入会した人があったことを思い出しました。

自分は学会員ではありませんが、映画『人間革命』(舛田利雄監督、丹波哲郎主演)はおもしろく見ました。

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