巻1第14話 仏入婆羅門城教化給語 第十四
今は昔、婆羅門城(ばらもんじょう)には仏法が伝えられておらず、みなが外道(仏教以外の教え)を信じ、その典籍を学んでいました。仏は教化のため、城に入りました。
外道が説きました。
「城に狗曇沙門(ぐどんしゃもん、釈尊)がやってくる。やつは極悪人だ。豊かな人には『この世のことは無益だ。功徳を造れ』といって財産を失わせ、貧窮におとしめてしまう。愛し合う夫妻には『世は無常である。仏法を修行せよ』と教え、別れさせてしまう。若く美しい女を見ては、『世はつまらないものだ。尼になりなさい』と誘い、頭を剃らせてしまう。このようなことを教えて、人を計り欺き、損をさせ、仲のよい人を哀しませる悪人だ」
城の人が聞きました。
「では、その沙門が来るのを食い止めるために、どうしたらよいのですか」
外道は答えました。
「狗曇沙門は、清い河の流れ、澄んだ池のほとり、よい木の影などに居る。河には尿糞の穢を入れ、木をすべて切り払い、家の戸を閉じよ。それでもまだ入ってこようとするならば、弓矢で射殺せ」
城の人は外道の教えにしたがい、河を失い、木を伐り、弓矢や刀で武装して待ちました。仏はたくさんの御弟子等をひきいて、城に至りました。
仏はいいました。
「私の教えを信じなければ、三悪趣(さんあくしゅ、地獄・餓鬼・畜生の3つの下層世界)に堕ち、無量劫(むりょうごう、永遠)の間、苦を受けつづけ、出ることはできないだろう。哀れなことだ。悲しいことだ」
すると、池河は清浄になり蓮花が咲き誇りました。地上の樹木は金・銀・瑠璃の花をつけました。人々の弓矢と刀は、すべて蓮花となり、仏を供養しました。
城の人は皆、五体投地して、「南無皈命(帰命)頂礼釈迦牟尼如来」と唱え、あやまちを懺悔しました。
この善により、城の人はみな無生法忍を得たと伝えられています。
【原文】
【翻訳】
草野真一
【校正】
草野真一
【協力】
草野真一
【解説】
草野真一
現在でこそ仏教は世界宗教のひとつだが、その拡大の場面では、さまざまな事件があったことだろう。この話はその際に起こったできごとを奇跡とともに紹介している。
教主には奇跡がつきものだ。しかし、現代ではその奇跡がかえって疑念を起こすこともある。
かといってこれがないと誰も信じないし。難しいところだ。
ところで、この話および前話には外道のリーダーとして三摩耶外道という人物が登場する。大乗仏教における三摩耶(サマヤ)は音訳だから、三摩耶外道は固有名詞だろうと考えて外道としか訳してないが、これについて知っている人教えてください。調べたんだけどわかんなかった。
なお、ここで「城」とあるのは、ヨーロッパなどと同様、インドでは街が城壁でかこまれているためだ。天守閣をかこうように城壁があって民がその外に街をつくる、というのは日本みたいに平野がせまい国だけに流通するとってもローカルな常識です。
『大般涅槃経』にある物語。
コメント