巻1第2話 釈迦如来人界生給語 第二
(巻一第二話①より続く)
摩訶那摩(まかなま)という大臣が大王のもとに参り、太子が生まれたことを伝えました。さまざまな希有があったことも申し上げました。
王は驚きつつ園に入りました。一人の女官が太子を抱いて言います。
「太子、父王がいらっしゃいました。敬礼してください」
王が答えます。
「まず、我が師のバラモンに礼をして、その後でよい」
女官は太子を抱いて、バラモンのもとに参ります。バラモンは太子を見て、王に言いました。
「この太子は必ず転輪聖王(てんりんじょうおう、理想的な王)となるでしょう」
王は太子とともに迦毗羅城(かぴらじょう)に戻りました。
城からそう遠くない場所に天神をまつっていました。名を増長と申します。釈迦族の人はみな、その社を礼拝して、願いをかなえてもらえるよう祈っていました。王は大臣たちにその天神の社に詣でさせようと言いました。
「私はこれから太子とともにこの天神を拝みたいと思う」
乳母が太子を抱いて天神の社に詣でると、ひとりの女天神が現れました。名を無畏(むい)と申します。女天神は堂より出て、太子を迎え、掌を合せ恭敬し、太子の御足を頂礼しました。そのうえで乳母に語りました。
「太子は勝れた人です。軽んじてはなりません。また、太子を私に礼させるようなことがあってはなりません。私が太子を礼しなければならないのです」
その後、王と夫人、太子は城に入りました。摩耶夫人は太子が生れてのち、七日で亡くなりました。王はもちろん、国民も歎き悲しみました。太子は未だ幼少であり、王は嘆きました。
「誰に養ってもらえばいいのだろう」
夫人の父である善覚長者には、八人の娘がありました。第八の娘を摩迦波闍(まかはじゃ)といいました。まるで実の母のように太子を養ったのはこの人です。太子の叔母にあたります。太子は悉駄(しっだ)と名づけられました。摩耶夫人は亡くなって後、忉利天(とうりてん)に生まれたと伝えられています。
【原文】
【翻訳】
草野真一
【解説】
草野真一
悉駄とはシッダールタを音訳したもの。釈迦の名である。
ヘルマン・ヘッセの最高傑作は『シッダールタ』とされているがこの小説の主人公は名前が同じだけで別人とされている。
シッダールタとは「目的を達成した人」の意。子につける名としては少々出来すぎだから、後世つけられたものではないかと言われている。
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