巻一第三十七話 子どもを護った執金剛神の話

巻一(全)

巻1第37話 財徳長者幼子称仏遁難語 第卅七

今は昔、天竺に財徳長者という人がありました。幼い愛子があり、つねに「南無仏」ととなえるよう教えていました。子は教えにしたがい、常に「南無仏」ととなえていました。寒いときも、暑いときも、心に憂いがあるときも、喜びがあるときも、忘れることなく常に「南無仏」ととなえていました。

ある日、この子が寝ているときに、空から鬼神が下りて来て、とって食おうとしました。子は「南無仏」ととなえました。その声は祇園精舎にとどきました。

仏はすぐさまおいでになって、子を加護して言いました。
「法の守護者よ、来たれ」
あらゆる方向から執金剛神(しゅうこんごうしん、金剛力士。仁王)があらわれ、鬼神を降伏し、神呪(呪文)をとなえました。鬼神は誓いました。
「私も今後は仏法の守護者となり、この人を護ります」

「南無仏」と口にすることはたやすいことですが、仏は加護があります。人はひたすらに仏の御名を称すべきだと語り伝えられています。

ヘラクレスの姿形を取ったヴジュラパーニ (執金剛神、左は仏陀。大英博物館)

【原文】

巻1第37話 財徳長者幼子称仏遁難語 第卅七
今昔物語集 巻1第37話 財徳長者幼子称仏遁難語 第卅七 今昔、天竺に財徳長者と云ふ人有り。一人の幼き愛子有り。常に此れを教へて、「南無仏」と云ふ事を称せしむ。小児、教へに随て、常に「南無仏」と称す。若は寒き時なれども、若は熱き時なれども、若は心に憂へ有る時なれども、若は心に喜び有る時なれども、忘るる事無く、常に「...

【翻訳】
草野真一

【解説】
草野真一

執金剛神は金剛力士(仁王)だが、ルーツはヘラクレスにある。武力に長けた半裸の男というイメージは共通してますね。あなたの知ってるあの仁王様はヘラクレスなんですよ。おお世界はつながっている。シルクロード!

執金剛神 - Wikipedia
巻一第三十一話 祇園精舎をつくった話
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