巻10第14話 費長房夢習仙法至蓬莱返語 第十四
今は昔、震旦の漢の時代に、費長房という人がいました。
この人が道を歩いていると、途中で、からからに乾いて白骨化してはいるものの、ばらばらになってしまわずに何とか人の形を留めている野晒しの骨があり、行き交う人たちに無造作に踏みつけられていました。費長房はこれを見て哀れみの心を覚え、この骨を拾い集めて、道端を避け、土を深く掘って埋めてやりました。
その後、費長房の夢に、誰ともわからず、また普通の人とは全く異なる様子の者が出てきて、費長房に言いました。
「私の死後、骨が道端にあったので、行き交う人たちに踏まれ続けていました。私の遺骸を道端から退けて隠してくれるような人もおらず、このように踏まれていることを嘆き悲しんでおりましたところ、あなたがこの私の骨を見て、哀れみの心を発して埋葬してくださったので、私はこの上なく喜んでこのように参上つかまつったのです。私の実の魂は、死後天に生まれて、この上ないほどの楽を受けています。同時に、骨を護ろうとして、一つの魂は骨の側を離れず、ずっと寄り添っていたのです。ですから、あなたが骨をこのように埋めてくださったことへの喜びを申し上げたく、参った次第です。私はこの恩にどう報いることが出来ましょうか。ただ、私は生前に仙法を習得しておりました。その方法は今尚忘れるものではありません。ですので、それをあなたにお伝えしようと思います」
費長房はこれに答えて言いました。
「私は、御遺体がどなたかは存じませんでしたが、道端にあって人に踏みにじられていたのを哀れに思ったので、埋め隠したのです。ですがあなたが今お越しになって、仙法を伝え教えようとしてくださることは、とても嬉しいことです。すぐにでも習おうと思います」
そこで、費長房は夢の中で仙法を習いました。習得した、と思ううちに夢から覚めました。
その後、習った通りにやってみるとすぐに体が軽くなり、虚空を思うように飛び回ることが出来るようになりました。以来、費長房は仙人となりました。
ですから、もし道端に遺体があって、人に踏みにじられるような辱めを受けていたなら、土に埋めて隠してあげるべきです。そうすればその魂は必ず喜ぶことでしょう、と語り伝えられています。
【原文】
【翻訳】 昔日香
【校正】 昔日香・草野真一










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