巻13第16話 比叡山僧光日読誦法花語 第十六
今は昔、比叡山の東塔(エリアの名)の千手院というところに、光日という僧が住していました。幼くして比叡山に登り、出家して師について法華経を授かり学ぼうとしましたが、愚かでものの道理が分からないために、学び得ることができませんでした。そこで三宝(仏・法・僧)に粘り強く祈請して、学び得ることができました。その後は梅谷(京都府木津川市)に籠もって長年法華経を読誦して、ひたすら仏道を修行しました。
そうしている間に、霊験あらたかなことが幾度もあり、次第にその評判が高くなっていきました。その為、中の関白殿であられる藤原道隆様の奥方(高階貴子)が光日聖人に帰依なさって、日々の供物や衣服などをいつもお与えになりました。
やがて、光日聖人は老境にさしかかり、愛宕護山(愛宕山)に移り、住しました。そこで昼夜分かたず法華経を読誦し、修行を欠かしませんでした。
ある時、宿願があって、(石清水)八幡宮の宝前に参詣しました。宝前にて夜、法華経を読誦していましたところ、傍らに人がいました。その人が夢を見ました。
宝殿の中から八人の天童が出て来て、自分の側で経を誦する僧を礼拝し、香を焚き花を蒔き散らしながら舞い遊びます。また、宝殿の内側より声が聞こえてきて、「如是聖者。必定作仏。昼夜光明。冥途耀日。(このような聖人は、必ず仏となるだろう。昼となく夜となくその功徳の光明は、冥界への道の輝く日となるだろう)」と宣われたのをきいて夢から覚めました。
見ると、僧(光日)が法華経を誦しながら傍らにおります。この人は僧に自分の見た夢を語り、僧を礼拝しました。光日もこれを聞いて泣く泣く礼拝し、愛宕護に帰りました。
その後、徐々に年老い、命が終わるとき、確かに法華経をすべて誦し終えて亡くなりました。必ずや浄土に生まれたであろうと、語り伝えられています。
【原文】
【翻訳】 昔日香
【校正】 昔日香・草野真一
【解説】 昔日香
※千手院…天台宗第六祖・智証大師円珍の住房で後唐院とも呼ばれた。千手観音を祀ることから、千手堂、千手院とも呼ばれる。円珍没後、天台宗は円珍派と慈覚大師円仁派の紛争が起こり、円珍派は、ここから円珍の木像を背負って園城寺(三井寺)に移住したという。
武蔵坊弁慶が千日間の参籠をした堂とも伝えられている
※八幡宮…神仏混交により、八幡神は八幡大菩薩として祀られていた。日本独自の仏であり、その信仰が廃されたのは明治政府の神仏分離政策によるものである
※宝前…神社や寺院の本殿、本堂の前
※宝殿…本殿、本堂
※天童…仏法を守護する童子姿の鬼神や天人



【協力】 いっちー








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