巻十三第二十四話 生涯を旅に過ごした聖人の話

巻十三

巻13第24話 一宿聖人行空誦法花語 第廿四

今は昔、世に一宿の聖人と呼ばれる僧がありました。名を行空といいました。年若い時より法華経を受け学んで、昼に六部、夜に六部、合わせて一日に十二部を誦することを欠かしませんでした。

出家した後は住むところを定めず、一つのところに二晩宿ることはありませんでした。そんなことですから、庵などを結ぶこともなく、このことから、一宿の聖人と呼ばれました。

また、僧具である三衣一鉢(三種の僧衣と托鉢用の鉢)をさえ、身につけていませんでした。もちろん他に貯えたものもありません。ただ身につけていたのは法華経一部のみでした。五畿七道(日本全国)行かなかったところはなく、六十以上の国を見て歩きました。

このように修行する間、道に迷うと、見知らぬ童子がどこからか出て来て道を教えました。水のない所に来てしまうと、見知らぬ女がひとりでに出て来て水をくれました。食物がなく餓えてしまうと、いつの間にか飯を持って人がやって来ました。

また、法華経の力によって、夢には貴く気高い僧が現れて常に語り合い、また、高貴な俗人が出て来て付き添うことも見られました。このように奇特なことが多くありました。

次第に年老いて老境に臨むときには鎮西(九州)にいました。遂に齢は九十に及び、法華経を誦することは三十万部以上になっていました。命が終わるとき、聖人は「ここに普賢菩薩、文殊菩薩がお姿を現し給うた」と言って、とても貴くお亡くなりになりました。このように語り伝えられています。

木造騎獅文殊菩薩像(快慶作、鎌倉時代 奈良県桜井市安倍文殊院)

【原文】

巻13第24話 一宿聖人行空誦法花語 第廿四
今昔物語集 巻13第24話 一宿聖人行空誦法花語 第廿四 今昔、世に一宿の聖人と云ふ僧有けり。名をば行空と云ふ。若より法花経を受け習て、昼る六部、夜る六部、日夜に十二部を誦する事を闕かず。

【翻訳】 昔日香

【校正】 昔日香・草野真一

【解説】 昔日香

※五畿七道…古代日本の律令制における、広域地方行政区画。原型は天武天皇の時代に成立したと言われている。

五畿
畿内ともいい、大和、山城、摂津、河内、和泉の五国

七道
東海道、東山道、北陸道、山陽道、山陰道、南海道、西海道の七道

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【協力】 いっちー

 

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今昔物語集 現代語訳

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