巻13第28話 蓮長持経者誦法花得加護語 第廿八
今は昔、蓮長という僧がいました。桜井(奈良県桜井市)の長延聖人と昔共に修行していました。年若いときから法華経を受け学んで、昼夜問わず読誦して、懈怠(けだい。なまけおこたること)することはありませんでした。また、金峰山寺、熊野、長谷寺などの霊験所に詣でては、その宝前で必ず法華経を千部誦していました。
さて、この蓮長持経者は、非常に早口で、一ヶ月の内に必ず法華経を千部誦していました。ですから、若いときから老いに至るまでの間に誦した法華経の部数は一体どれほどなのか、数え切れないほどでした。傍に人がいて、いくら蓮長が早口だと言っても、本当に一ヶ月の内に法華経を千部誦するなど出来ないのではないかと疑いを持っていました。するとその人の夢に大層気高くも怖ろしい様子の人が四人現れました。皆、天衣(てんえ。菩薩や天人などが肩から胸に垂らしている長い布)を着て甲冑を身に着けています。四人は手に、おのおの鉾(ほこ)や釼(つるぎ)等を持っています。四人は蓮長の前後左右に付き添って、一瞬たりとも離れないようでした。この人は、夢から覚めた後、疑いの心を永遠に断って、これまでのことを悔い悲しみ、蓮長を貴ぶようになりました。
蓮長は、最期の時に臨み、その手に際立って美しい真っ白な蓮の花を持っていました。これを人が不思議に思って、「近頃は蓮の花が咲く時季ではありません。一体どこに生えていた蓮の花を取って来たのですか」と問いました。蓮長はこれに答えて、「これは妙法蓮花というものです」と言ったかと思うと、あっという間に亡くなってしまいました。その後、蓮長が手に持っていた蓮の花は、誰かが取った訳でもないのに、たちまち消えてしまいました。
このことを見聞きした人は、「なんと不思議なことだろう」と、拝み貴んだと語り伝えられています。
【原文】
【翻訳】 昔日香
【校正】 昔日香・草野真一
【解説】 昔日香
※妙法蓮花…妙法蓮花経とは、妙なる蓮花の教え。仏教の象徴は蓮花である。「蓮(はちす)はきよきもの、泥よりいでたり」。泥中に身を沈めながら汚泥に染まることなく清浄に咲き誇る蓮花。「一切の花の中に取分けて此花を法華経に譬えさせ給う事は其故候なり」という(引用は日蓮「上野尼御前御返事」)










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