巻13第35話 僧源尊行冥途誦法花活語 第卅五
今は昔、源尊という僧がありました。幼少より父母の元を離れて法華経を受け学び、昼も夜も読誦していました。しかし、経を暗記しようと思ってもなかなか覚えることが適いませんでした。まだ若い盛りに、重い病に罹って亡くなってしまいました。
ところが、一昼夜後に生き返って語りました。
「私が死んだとき、冥土の役人たちが私を捕縛し、閻魔王の役所に連れて行きました。冥官や冥道(冥府の役人)衆たちがみんなその場所にいて、ある者は冠を戴き、ある者は鎧をまとい、ある者は鉾を捧げ持ち、ある者は机に向かって(死者の行動を記した)札を調べて、罪人の善悪を記していました。その様子は見るだに怖ろしいものでした。ところが、傍らに貴く気高い僧がおわしまして、手に錫杖を持っていました。また、経箱を持って閻魔王に申されることには、『ここなる沙弥(受戒してない僧。僧見習い)源尊は、法華経を誦すること長年に渡ります。速やかに定まった席につけなさりませ(罪人としてあつかってはならない)』と言って、この箱から経を取り出して、第一巻から第八巻まで私に読誦させました。その間、閻魔王を始めとして、冥官も皆合掌してこれを聞いていました。その後、この僧は私を連れ出して、本国(人間の世界)に向かわせました。不思議に思ってこの僧を見てみますと、観音のお姿をしています。その時、私に教えて仰ることには、『そなたは本国に帰ってよくこの経を読誦しなさい。私も、そなたが経をそらで読めるようになるよう力を貸しましょう』と言われたかと思うと、生き返っていたのです」
人々はこれを聞いて皆、この上なく貴びました。
その後、源尊は病も癒えて経一部をすべてそらで覚え、一日に三部を誦しました。二部は六道の衆生のために廻向し、一部は我が身が悪趣を離れて極楽浄土に生まれるためでした。
その後、だんだん年がたって、最後の時に至りましたが、身にわずかに患うところありと言えども、重い病ではなく、心も平常で、法華経を誦して亡くなりました。「法華経の力によって冥土で観音のご加護を得たのです。きっと悪趣を離れて善所にお生まれになったことでしょう」と、人は貴んだと語り伝えられています。
【原文】
【翻訳】 昔日香
【校正】 昔日香・草野真一










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