巻十四第十三話 前生で経を食い荒らした僧の話

巻十四

巻14第13話 入道覚念持法花知前生語 第十三

今は昔、入道覚念は明快律師の兄です。道心を発して出家した後は、戒を保ち、法華経を習い、訓読で誦しました。

しかし経の中の三行だけ、読むことができませんでした。そこに至るたび、忘れてしまうのです。覚念はこれを歎き悲しみ、三宝(仏法僧)に祈り、この三行を誦することを願いました。覚念の夢に、気高く貴い老僧があらわれて告げました。
「おまえは宿因によってこの三行を読誦できない。おまえは前生、衣魚(しみ、紙魚。紙や服を食い荒らす虫)であった。法華経(の巻物)の中に巻き籠められていたが、この三行のみ食ってしまい、失ってしまった。経の中にいたからこそ、今人の身に生まれ、出家入道して、法華経を読誦している。しかし、経の三行の文を失なってしまったために、その三行だけ読誦することができないのだ。とはいえ、おまえは今、強く懺悔している。私が読めるようにしてやろう」

その後、かの三行の文を誦することができるようになりました。前生の罪業を懺悔して読誦したためです。一生の間、毎日三部(三度)読誦して欠かすことはありませんでした。現世の名聞利養(名声や欲)を棄て、ひたすら後世の無上菩提を願いました。

法華経の力によって、前生を知り、いよいよ心を至して読誦したと語り伝えられています。

法華経薬王品(平安時代 静岡市鉄舟寺)

【原文】

巻14第13話 入道覚念持法花知前生語 第十三
今昔物語集 巻14第13話 入道覚念持法花知前生語 第十三 今昔、入道覚念は明快律師の兄也。道心を発して出家して後、戒を持(たもち)て法花経を受け習て、訓にぞ読誦しける。 而るに、経の中に三行の文、更に読まれず。其の所に至る毎に、其の三行の文を忘る。覚念、此れを歎き悲むで、三宝に祈り申て、此の三行の文誦せむ事を願...

【翻訳】 草野真一

【解説】 草野真一

「経典を訓読した」とある。元となった『法華験記』にもこのくだりはない。経を訓読することもあまりない。

千年も前の話なのだから、道具や生物の名前が変わっているのは当然だ。ところが、この虫は今でもまったく同じ名前で呼ばれている。

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