巻十七第三十九話 普賢の化身と呼ばれた僧の話

巻十七(全)

巻17第39話 西石蔵仙久知普賢化身語 第卅九

今は昔、京の西山に西石蔵(いわくら)という山寺がありました。その山寺に、仙久という持経者が住んでいました。長くこの山寺に住み、法華経を日夜に読誦して、怠ることがありませんでした。仙久は以前、法文を学んだことがあり、この山寺に住んでからも、常に法文に向かい学問をしていました。道心は並びなく、いつくしみの心は深く、人々を父母のように思っていました。また、寝ても覚めても極楽に生まれることを願い、念仏をとなえていました。房のわきに、別の草庵をつくり、法華の八曼陀羅をかけ八香印をたき(天台の修法)、法をおこなっていました。

このようにねんごろに勤め行っていたため、世の人はみな夢に見ました。
「もし普賢菩薩に会いたいと思うなら、西石蔵の山寺に住む仙久聖人に会うがいい。普賢の化身である。近づくとよい」
この夢の告を聞き、世の人々は、京からも田舎からも、この人と結縁するために尋ねて来ました。たいへん多くの人が来ました。

こうするうちに、聖人は年齢をかさねました。ずっと続けてきた法華経の修行も実を結び、命が終わるときには念仏を唱え、経を誦して逝きました。

これを聞いて、世の人はより深く信を発したと語り伝えられています。

普賢菩薩騎象像(国宝 12世紀 大倉集古館)

【原文】

巻17第39話 西石蔵仙久知普賢化身語 第卅九
今昔物語集 巻17第39話 西石蔵仙久知普賢化身語 第卅九 今昔、京の西山に西石蔵(いはくら)と云ふ山寺有り。其の山寺に、仙久と云ふ持経者住けり。年来、此の山寺に住て、法華経を日夜に読誦して、更に怠る事無し。又、本は仙久□□の僧として、法文を学びければ、此の山寺に住ても、常に法文に向て学問をしけり。亦、道心並び無く...

【翻訳】 草野真一

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