巻十九第二十二話 そうめんが蛇に変わった話

巻十九

巻19第22話 寺別当許麦縄成蛇語 第廿二

今は昔、□寺の別当に□という僧がありました。僧のすがたをしていましたが。よこしまな心をもち、毎日京中の人を集めて遊び戯れ、酒を呑み、魚類を食べることに明け暮れ、して、いささかも仏事を営むことはありませんでした。常に遊女・傀儡を集めて、歌ったり笑ったりしていました。ほしいままに寺の物をつかって、これを怖れることなど夢にもありませんでした。

夏ごろ、麦縄(冷麦。そうめんの祖)をたくさんつくって、多くの客人を集めて食べて、残ったことがありました。
「すこしこれを置いておこう。古い麦は薬になるというから(当時の俗信)」
大きな一合の折櫃に入れ、間木(長押に設置された棚)に上げて置いておきました。必要もありませんでしたから、そのままおろして見ることもありませんでした。

折櫃

翌年の夏、別当は麦の折櫃を不意に見つけました。
「あれは去年置いた麦縄じゃないか。腐ってしまっただろうな」
下ろさせて折櫃のふたを開かせました。折櫃の中には麦はなく、小さな蛇がとぐろをまいていました。蓋を開いた者は思いもかけないことだったので、放り出しました。別当も、またその他の少々の人も、これを見ました。
「仏物だからこそ、このようになったのだろう」
蓋をしめ、折櫃を川に流しました。

おそらく、現実の蛇ではなかったのでしょう。ただそのように見えたのです。

誦経して得た物や金鼓をたたいて得た米などのことが思いやられます。仏物は量り無く、それを着服することは罪の重いことです。寺の僧が語ったことを聞き継いで、語り伝えられています。

【原文】

巻19第22話 寺別当許麦縄成蛇語 第廿二
今昔物語集 巻19第22話 寺別当許麦縄成蛇語 第廿二 今昔、□□寺の別当に□□と云ふ僧有けり。形、僧也と云へども、心、邪見にして、明暮は京中の人を集めて、遊び戯れて、酒を呑み、魚類を食して、聊も仏事をば営まざりけり。常に遊女・傀儡を集めて、歌ひ嘲けるを以て役とす。然れば、恣に寺の物を欺用して、夢許も此れを怖るる心...

【翻訳】 草野真一

【解説】 草野真一

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