巻2第5話 仏人家六日宿給語 第五
今は昔、仏は舎衛国(コーサラ国)にあり、人の家に六日間宿泊し、供養を受けました。
七日めの朝、出かけようとすると、天が陰り風が吹き、川ができるような洪水になりました。家の主人が仏に申し上げました。
「今日は泊まっていってください。この雨風ではどうにもなりません。七日めの供養をいたしましょう」
舎利弗・目連・阿難・迦葉などの弟子たちも、「今日はとどまってください」と申しあげましたが、仏は聞きいれませんでした。
「できない。それをわからないおまえたちは愚か者だ。ひとこと言葉を交わすのも、一夜の宿を得るのも、すべては前世の業因である。家の主よ、よく聞くがよい。おまえは前世で人として生まれたが、捨てられ、寒さのために死ぬところだった。そのとき、私がおまえを六日間あたため、命を助けた。だが、七日めの朝、おまえは寒さに堪えきれず死んでしまった。おまえの家に六日間宿して供養を受けたのはそのためだ。したがって、今日はおまえの家にとどまることはできない」
仏は耆闍崛山(ぎしゃくっせん、釈迦が拠点とした霊鷲山の別名)に戻りました。家の主人も弟子たちも、これを聞いて貴びました。
一言一宿も、皆前世の契りである。そう語り伝えられています。
【原文】
巻2第5話 仏人家六日宿給語 第(五)
今昔物語集 巻2第5話 仏人家六日宿給語 第(五) 今昔、仏、舎衛国にして、人の家に行給て、六日宿し給て、供養を受給ふ。 七日と云ふ朝に、還り給なむと為るに、天陰り風吹きて、洪水、山河に出たり。家の主、仏に白して言さく、「今日、留り給へ。雨風の有難く、亦、同くは七日と
【翻訳】 草野真一
【解説】 草野真一
インドは雨期と乾期がある国で、雨期にはすさまじい雨が降る。ガンジス川の支流のいくつかは雨期には大河になり乾期には消失する。それが普通のことなのだ。このエピソードは雨期のできごとだろう。
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