巻29第2話 多衰丸調伏丸二人盗人語 第二
今は昔、世に二人の盗人がいました。多衰丸(たすいまろ)調伏丸(ちょうぶくまろ)といいました。多衰丸は世間によく知られた盗人でしたが、土蔵破りを常習としていました。度々捕らえられて獄に繋がれていました。調伏丸は、どういうことがあったのか、正体不明の盗人でした。
多衰丸も␣␣(欠字。一枚消失していると考えれている※1)似ています。その時に多衰丸は[調伏丸がこのようなものであることを(欠落部分を指している)]不思議なことだと思いました。調伏丸は、名前は聞きますが、遂に誰であるかということも知られずじまいでした。世間の人々も、皆たいそう不思議に思っていました。
これを思いますに、調伏丸は極めて賢い奴であります。「多衰丸と組んで盗み回ったのに、誰であるか知られずじまいあった。極めて珍しいことである」と世間の人は言った、とこのように語り伝えているということでございます。
【原文】
【翻訳】 松元智宏
【校正】 松元智宏・草野真一
【協力】 草野真一
【解説】 松元智宏
※1 旧全集の語注には次のようにあります。「底本、空格を欠くが、長文、恐らく一紙分の脱落が想定される。」
多衰丸という名の盗賊
芥川龍之介「藪の中」では多襄丸という盗賊が登場します。この盗賊の名は、本話の多衰丸から名がとられていると考えられます。さらに、この名は後のクリエーターにも影響を与え、黒澤明監督「羅生門」に登場する盗賊は多襄丸という名であり、最近では小栗旬主演で「TAJOUMARU」という映画も作られました。
このように魅力あるキャラクターが登場する話なのですが、欠落した部分に二人がどのように盗みを犯していたかが描かれていると思われ、そこが抜けているがためによく分からない話になっているのが残念です。
この話を、現代小説訳したものはこちら
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