巻3第28話 仏入涅槃告衆会給語 第(廿八)
今は昔、釈迦如来は四十余年の間、天上・人中において、一切衆生の為に種々の法を説き、教化したまいました。既に齢八十となり、毘舎離国(バイシャーリー)にて阿難(アーナンダ、釈迦の身の回りの世話をした弟子)に言いました。
「私は今、身体のすべてが痛い。三ヶ月後、涅槃に入る(死ぬ)だろう」
阿難は仏に申しました。
「仏はすべての病を超えています。なぜ痛むのでしょうか」
仏は起きあがり、光を放ち、世界を照らしました。結跏趺坐していました。光に照らされたすべての衆生は、苦をのがれ、楽を受けました。
その後、仏は毘舎離国より拘尸那城(クシナガラ)に至り、沙羅林の双樹(沙羅双樹)の間で、獅子の床(仏の座)に臥しました。
仏は阿難に告げました。
「まさに知るべし。私は今、涅槃に入ろうとしている。さかんな者も、必ず衰える。生まれた者は、かならず死ぬのだ」
また、文殊菩薩に告げました。
「私の背が痛む理由を、今、ここに集まった者たちに伝えよう。私は二つの因縁によって病はない。ひとつは、すべての衆生を哀れんだこと(慈悲)。もうひとつは、病に苦しむ者に薬を施したことだ。私ははるかな過去の昔にいるときから、菩薩の道(仏になるための道)を修してきた。常に衆生を利益(りやく)し、苦しみと悩みを除いてきた。病がある者には、種々の薬を施した。私が病にかかるはずはない。しかし、私は昔、鹿の背を打ったことがある。だから今、涅槃の時に臨んで、その果報を背に受けているのだ」
迦葉(大迦葉、マハーカーシャパ。仏教第二祖)は耆婆(ジーヴァカ)大臣(仏の主治医)を召し、容態を問いました。大臣は答えました。
「仏はまさに涅槃に入ろうとしています。薬を使ってはなりません」
迦葉とすべての人々は、大臣の言を聞いて、かぎりなく歎き悲しみました。大臣もまた、悲歎に暮れました。
人も天人も僧も、仏が涅槃に入るのを見て、歎かない者はありませんでした。そう語り伝えられています。
【原文】
【翻訳】 草野真一










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