巻3第3話 目連為聞仏御音行他世界語 第三
今は昔、仏の御弟子の目連(モッガラーナ)尊者は神通力が一番の御弟子でした。
諸々の御弟子や比丘に「我々は仏のお声を所々で聞くが、常に同じ声でただおそばで聞いているようだ。そこで、私は神通力をもって遙か遠くに行き、仏の声の高低を聞こうと思う。」と語られ、三千大千世界を飛び過ぎ、そこよりも西へ更に数え切れないほど多くの国土を通り過ぎて行って聞いてみましたが、仏のお声はやはり同じで、ただおそばで聞いているようでした。
そのときに目連は飛びつかれて地に落ちてしまいました。落ちたところは仏の世界でした。仏の弟子の比丘が布施の食を受けようとしているところでしたが、目連がその鉢の縁に飛び降りしばらく休んでいると、仏の弟子の比丘らは目連を見て「この鉢の縁に僧に似ている虫がいる。どんな衣服につく虫が落ちてきたのか。」といって寄り集まって面白がりました。
この様子を、その世界を教化する仏が見て御弟子の比丘らに告げておっしゃるには「お前たちは愚かなので知らないのだ。この鉢の縁にいるものは虫ではない。ここより東へ数え切れないほど多くの仏土を過ぎていくと別の世界があり、そこを娑婆世界という。その国に仏が現れなさった。釈迦牟尼仏とおっしゃる。これはその仏の神通力一番の弟子で名は目連という。師である釈迦如来の声を聞くと遠くても近くても声が同じで高低がない。これを疑い、数え切れないほど多くの世界を過ぎて遙か遠くこの地へ来たのだ。」とお説きになりました。
弟子らはこれを聞いて皆感嘆しました。目連もこれを聞いて喜び元の世界に戻りました。仏のお声の不思議であることに一層信仰を深め、御前にひれ伏し拝み申し上げたと伝えられています。
【原文】
【翻訳】 吉田苑子
【校正】 吉田苑子・草野真一
【協力】 草野真一
【解説】 草野真一
目連は舎利弗(サーリプッタ)ともに、釈迦の弟子の筆頭格である。
最初期の仏教教団は「教団」とはとても呼べない、ごく小さなコミュニティにすぎなかった。釈迦のように新しい思想を述べる人がめずらしくなかった時代であるから、当時の仏教教団程度のコミュニティは無数にあったと考えるべきだろう。
舎利弗と目連は250人の同志とともに釈迦の弟子となった。仏教教団が「教団」と呼んでいい規模を備えたのはこのときのことである。「舎利弗と目連が仏教教団をつくった」と言っても過言ではないだろう。
神通第一と呼ばれ、神通力(超能力)を得意とした。本話はその側面を述べたものである。
最期は外道(仏教以外の宗教)がさしむけた多くの殺人者に取り囲まれて逝った。神通力で避けなかったのは、あえて運命(因果)を受けいれたためとされる。
釈迦より年長であり、没するのも早かった。

目連の最期 Description of attainment of Parinirvana by Mogallana. Moggallana was meditating, while some robbers or thieves came and attacked and killed him. Moggallana died and thus attained Parinibbana.


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