巻四第二十一話 五頭の獅子を出し許された罪人の話

巻四(全)

巻4第21話 為国王負過人供養三宝免害語 第廿一

今は昔、天竺に一人の男がありました。罪を犯し、その過(とが)を受けることになりました。国王は男を捕え、首を切ろうとしました。そのとき男が申しました。
「私に七日の猶予をください」
王は男の願いを聞いて、七日の暇を与えました。

男は家に帰ると、七日の間、心を至して三宝(仏法僧)を供養しました。七日がたち、八日めの朝、国王のもとに参りました。

国王は男がやってきたことを喜び、約束どおり首を落とそうとすると、男はたちまち仏の姿になりました。国王はこれを見ると、斬首刑をやめ、大象を酔わせ、男を踏み殺させようとしました。男は金色の光を放ち、指の先から五頭の師子を現し出しました。酔象はこれを見ると、たちまち逃げ去りました。

国王はこの奇異を見て、恐怖して問いました。
「おまえはどんな徳があって、このような不思議をあらわすのか」
「私は家に帰って、七日の間、三宝を供養し奉っただけです。七日を過ぎて、ここに参りました」
国王は、男の罪を許し、三宝に帰依するようになりました。

三宝を供養し帰依することは、このように無限の功徳を現出させると語り伝えられています。

【原文】

巻4第21話 為国王負過人供養三宝免害語 第廿一
今昔物語集 巻4第21話 為国王負過人供養三宝免害語 第廿一 今昔、天竺に一人の人有り。国王の為に犯を成して、其の過(とが)を負へり。国王、此の人を捕へて、頸を切らむと為る程に、此の人、国王に申して云く、「我れに七日の暇を免し給へ」と。国王、申すに依て、七日の暇を給ひつ。

【翻訳】 柴崎陽子

【校正】 柴崎陽子・草野真一

【協力】 草野真一

【解説】 柴崎陽子

この話は『経律異相』よりとられていますが、それによれば、王がいけにえとして牛や羊を捧げる(バラモン教/ヒンズー教の慣習)よう命じたところ、男は「私は仏弟子です」といって命令を拒んだため、罰せられることになったとされています。

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