巻六第十六話 阿弥陀の絵像を見て極楽を幻視した僧の話

巻六(全)

巻6第16話 震旦安楽寺恵海画弥陀像生極楽語 第十六

今は昔、隋の時代、江都に安楽寺という寺がありました。その寺に恵海という僧が住んでいました。清河武城(せいがぶじょう、現在の河北省)の人です。出家して後、とても熱心に経論を学びました。とくに浄土の教えを学びました。

斉州の僧、道領が、阿弥陀仏の絵像を持って来て、恵海に語りました。
「この像は、天竺の鶏頭摩寺(けいずまじ)の五通の菩薩が神通力で空を飛び、極楽世界に赴き、阿弥陀仏のすがたを見て、図絵にしたものです」

恵海はこの像を見て、長く抱いていた夢がかなったように思い、かぎりなく喜びました。仏のすがたは輝いていました。恵海は驚愕し、感嘆して、この極楽世界に生まれたいと願いました。

夜になると、恵海はこの絵像の前に座し、西(浄土があると言われた方角)を向いて礼拝して、ひたすらに念じました。やがて夜が明けると、正しく座り、掌を合わせ、口に仏の御名を唱えながら死にました。人が近寄って見ると、恵海のすがたは生きているころと変わりませんでした。

世の人はこのすがたを見聞して「恵海は必ず極楽に生まれるにちがいない」と貴んだと語り伝えられています。

絹本著色阿弥陀二十五菩薩来迎図(京都市知恩院)

【原文】

巻6第16話 震旦安楽寺恵海画弥陀像生極楽語 第十六
今昔物語集 巻6第16話 震旦安楽寺恵海画弥陀像生極楽語 第十六 今昔、震旦の隋の代に、江都に安楽寺と云ふ寺有り。其の寺に恵海と云ふ僧住けり。本、清河武城の人也。出家して後、善く経論を受け習て、専に浄土の業を修す。

【翻訳】 西村由紀子

【校正】 西村由紀子・草野真一

【協力】 草野真一

【解説】 西村由紀子

鶏頭摩寺はインドのマガダ国にあったとされる寺で、アショーカ王(阿育王)の創建とされる。五通の菩薩はここに住み、はじめて阿弥陀仏の絵像をひろめたとされるが、7世紀に玄奘三蔵が訪れたときには、すでに鶏頭摩寺はなく、礎石が残るのみだったという。

この話は隋の時代(6世紀末)とされているから、玄奘のころよりすこし前のこと、ではあるが。

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