巻6第18話 震旦并州張元寿造弥陀像生極楽語 第十八
今は昔、震旦の并州に、張の元寿という人がおりました。
善の心がありましたが、家は殺生を業(漁師・猟師・魚屋・肉屋など生物の命を奪う職業)としていました。
元寿は父母が亡くなると、殺生の業を断ち、ひたすらに阿弥陀仏を念じるようになりました。心を専にして、父母の後世を救うため、阿弥陀仏の三尺(約1メートル)の立像をつくり、家の内に安置して、香を焼き、花を散じ、灯明をあげて、供養礼拝しました。
ある夜、夢を見ました。空の中に光があり、その光の中に、蓮の台に乗った人が、二十余人あります。
その中の二人の人が、庭の上に近づいてきて、元寿を呼びました。元寿は問いました。
「私を呼ぶのは誰ですか」
「おまえを呼んだのは、おまえの父母である。私たちは生前、念仏三昧(一心に念仏すること)を悟ったが、飲酒と肉食を好み、多くの魚鳥などを殺したために、叫喚地獄に堕ちた。しかし、念仏を修していたために、熱い鉄は清涼な水のように感じた。そして昨日、一人の沙門がやってきた。身長は三尺だった。沙門は法を説き、私たちと同じ業で地獄に堕ちた者二十余人が、沙門の法で地獄を免れ、浄土に生まれることになった。これをおまえに伝えたかったのだ。空の中にある人は、私たちともに地獄にあった人たちだ」
言い終えると、西(浄土の方向)に向けて去っていきました。そこで夢から覚めました。
その後、元寿は一人の僧にこの夢を語りました。僧は言いました。
「まちがいなく、あなたがつくった三尺の阿弥陀の像が、地獄に行き、あなたの父母を救うために法を説いたのです。同じ罪を犯し同じ業を負った者もともに法を聞き、地獄を免れて浄土に生まれたのです」
元寿はそれから、ますます三尺の像を礼拝し恭敬したと語り伝えられています。
【原文】
【翻訳】 西村由紀子
【校正】 西村由紀子・草野真一
【協力】 草野真一
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