巻6第27話 震旦并州常慜渡天竺礼盧舎那語 第廿七
今は昔、震旦(中国)の并州に常慜(じょうみん)という僧がありました。願を発し、聖迹をたずねて、礼拝のため天竺(インド)にわたりました。
やがて、中天竺の鞞索迦国(ひさくかこく、ファイザーバード)にたどりつきました。王城の南に、道の左右に高さ二十余丈(約60メートル)の伽藍がありました。毗盧舎那仏(びるしゃなぶつ、奈良の大仏と同じ)の像がおさめられていました。たいへん霊験あらたかで、求めるところがある者は、この像に祈請すると、願いを満足することができました。障難がある者は、この像を礼拝すると、取り除くことができました。国を挙げてかぎりなく崇め貴ばれました。
この像の縁起として、次のような話が伝えられています。
「昔、この国に鬼神があった。人々はこの鬼神に悩まされ乱され、国は荒れすさんでいた。一人の尼乾子(にけんし。ジャイナ教の一派で卜占をよくした)があり、このことを占った。国王は尼乾子に、国が荒廃するのはなぜか問うた。尼乾子は算木で大地を印して言った。『ここには荒神があり、障難を発しています。大神(尼乾子が信仰する神)に帰するならば、安穏を得ることができるでしょう』
王は聡明な方だったので、これを聞いて思った。『大神に帰するより、仏陀の加護を願うべきだ』
王はすぐに毗盧舎那の像を左右の精舎に安置させた。左の像は黄金で彫鏤し、右の像は白銀をもって造立した。高さ二十丈(約60メートル)である。毎日供養して、礼拝恭敬した。
すると、青衣の夜叉童子があらわれ、荒神の悪鬼たちを追い出し、国の外に閉め出した。多くの障難がとりのぞかれた」
常慜が語り伝えました。
【原文】
巻6第27話 震旦并州常慜渡天竺礼盧舎那語 第廿七
今昔物語集 巻6第27話 震旦并州常慜渡天竺礼盧舎那語 第廿七 今昔、震旦の并州に常慜と云ふ僧有けり。願を発して、聖迹を尋て、礼せむが為に天竺に渡る。 既に中天竺の鞞索迦国に至ぬ。王城の南に、道の左右に伽藍有り。高さ二十余丈也。毗盧舎那の像、在ます。霊験掲焉(けちえん)にして、凡そ、求むる処有る者は、此の像に祈請...
【翻訳】 西村由紀子
【校正】 西村由紀子・草野真一
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【協力】ゆかり・草野真一
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