巻六第三十四話 地獄で蓮華蔵世界に生まれた男の話
巻6第34話 震旦空観寺沙弥観花蔵世界得活語 第卅四
今は昔、震旦(中国)の空観寺という寺に、一人の沙弥(小僧)がありました。名を定生といいます。沙弥でありながら、僧法を犯していましたし、経教を誦することもありませんでした。
ある日、ある僧が定生に蓮華蔵世界の相を語りました。定生はこれを聞いて歓喜しました。常に心懸け、かの世界に生まれることを願いました。
しかし、定生はまったく戒律を守りませんでしたから、死んで紅蓮地獄に堕ちました。ところが定生はこの地獄を見て、「これは蓮華蔵世界だ」と思い、歓びととに「南無花蔵世界妙土」と唱称しました。
そのとき、地獄はたちまちに蓮華蔵世界に変わりました。定生が「花蔵妙土」と唱える声を聞いた罪人は、みな蓮花に座りました(蓮華蔵世界の風景)。
ある獄卒がこの希有できごとを閻魔王に語りました。王は言いました。
「これは華厳経の大いなる不思議の力である」
偈を説きました。
帰命華厳 不思議経 若聞題名 一四句偈 能排地獄 解脱業縛 諸地獄器 皆為 云々
(華厳不思議経に帰依し奉る。もしこの経の題名と四句の偈を聞いたなら、よく地獄を打ち破り、業の緊縛を解き放ち、もろもろの地獄の責め具はみな蓮華蔵世界のものとなって、すべての者が宝蓮華の上に座するのを見るであろう)
沙弥は一日一夜を経て蘇生しこれを語りました。
「地獄はみな蓮華蔵世界となった。罪人はみな、蓮花に座っていた」
その後は心を発して、善を修し、通(神通力)を得ました。どこに行ったかはわかりません。そう語り伝えられています。
【原文】
巻6第34話 震旦空観寺沙弥観花蔵世界得活語 第卅四
今昔物語集 巻6第34話 震旦空観寺沙弥観花蔵世界得活語 第卅四 今昔、震旦の空観寺と云ふ寺に、一人の沙弥有り。名を定生と云ふ。沙弥也と云へども、僧法を犯して、経教を誦する事無し。
【翻訳】 西村由紀子
【校正】 西村由紀子・草野真一
巻六第三十三話 華厳経の偈をとなえて蘇生した男の話
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