巻九第十五話 死んだ友があの世のことを伝えにきてくれた話

巻九

巻9第15話 河南元大宝死報告張叡冊夢語 第十五

今は昔、河南(河南省洛陽県)に、元大宝という人がありました。貞観年間(627~649、唐時代)に、大理の丞(補佐役)でした。この人は因果の理(仏教の根本原理)を信じませんでした。同僚に張叡冊という人があり、たがいに友として、深く交際していました。

大宝は叡冊と約束していました。
「私たち二人のうち、先に死んだ者は、果報の善悪(今していることの影響)があるかどうか、知らせることにしよう」

貞観十一年(637年)、大宝は車で洛陽に行く間、病にかかり、死にました。叡冊は、都・長安にあり、大宝が死んだことを知りませんでした。

ある夜、叡冊の夢に大宝が現れて告げました。
「私は死んだ。私は生きているとき、善悪の報があることを信じなかった。死んでわかった。善悪の報はある。だからこそ私はここに来たのだ。君よ、福業(善行)を修すようにつとめなさい」

叡冊はさらにそのことを深くたずねると、大宝が答えました。
「冥途の果報のことは、決して伝えてはならないことになっている。ただ君に『報はある』ということを知らせることができるのみだ」
そこで夢から覚めました。

その後、叡冊は同僚にこの夢のことを伝えました。しかし、大宝の生死は知りませんでした。翌日、大宝のことをたずね、彼が死んだことを知りました。

「生きているとき、深い友だったからこそ、死んでからも約束を忘れず、このように伝えてくれたのだ。なんとありがたいことだろう」
叡冊は大宝を恋い、悲しんだと語り伝えられています。

長安(現在の西安)シルクロードの中心であり、日本からも遣隋使・遣唐使が派遣される国際都市だった

【原文】

巻9第15話 河南元大宝死報告張叡冊夢語 第十五
今昔物語集 今昔物語集 巻9第15話 河南元大宝死報告張叡冊夢語 第十五 今昔、河南に、元大宝と云ふ人有けり。貞観の間に、大理の丞とて有けり。此の人、心に因果を信ぜず。亦、同僚に、張の叡冊と云ふ人有けり。互に友として、契り深し。

【翻訳】 西村由紀子

【校正】 西村由紀子・草野真一

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