巻九第十九話 震旦長安人女子死成羊告客語 第十九
今は昔、長安(唐、隋などの都)の習俗に、毎年、元日以降に飲食の席を儲けて近隣の者を招待するというものがありました。これは持ち回りになっていて、今年は東の市の筆工(筆づくりの職人)趙士の番にあたっていました。
客がやってきて、厠に行きました。近くにあった碓(唐臼)の上を見ると、少女がおりました。年のころ十三、四ほどでしょう。青い裳をつけ、白い衫(上衣)を着ています。縄を首にかけていました。すがた形は端正でした。碓に結びつけられ、泣いていました。
少女は客に言いました。
「私はこの家の娘です。生きていたころ、私は家のお金、百銭を盗み、『脂粉(おしろい)を買おう』と考えました。しかし、それを実行しないまま、私は死んでしまったのです。その銭は今、廚舎の西北の角の壁の中にあります。私は銭をつかってはいませんが、父母の物を盗んだのです。このことによって罪を得て、父母につぐないをすることになったのです」
少女はたちまち、白い頭頂の青い羊となりました。
客はこれを見て大いに驚き、家の主人に告げました。主人はこれを聞くと、少女の相貌をたずねました。客は見たままを語りました。主人はかぎりなく悲しみ泣きました。
少女が死んでから、既に二年が経っていました。廚舎の西北の角の壁の中を調べると、たしかに百銭が入っていました。本当に人が入れておいたもののようでした。羊は客のために準備したものでしたが、主人はこの話を聞いて、殺すのをやめ、寺に送りました。
この後、家の者は肉食をしなくなりました。また、もっぱらに仏法を信じて、心を至して善根を修したと語り伝えられています。
【原文】
【翻訳】 西村由紀子
【校正】 西村由紀子・草野真一
【解説】 草野真一
前話(巻九第十八話)同様、死んだ娘が頭が白く体が青い羊に生まれ変わる話。カラーリングが同じってことはなんか意味があるはずだが、わからなかった。知ってる人教えてください。

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