漱石、芥川、芳賀矢一そして南方熊楠

今昔物語集について

Twitterで『今昔物語集』に関するたいへん興味ぶかい論議があったのでご紹介いたします。

発端は、牛頭凡俗さん(@GozuBonzoku)による次のツイートがあったことです。

要約しますと、芥川龍之介が作家デビューの前に習作である『鼻』を夏目漱石に見せたところ、【材料が非常に新しい】と評され、これが師事のきっかけになったということです。1916年のことでした。

『今昔物語集』は現代のように簡単にふれられるものではありませんでした。

とはいえ、ふれようと思えばふれられるものであったのは事実でしょう。
佐もんじさん(@tjgp_w57)が上のツイートに、以下のような実証的なツイートで反論をしています。

『今昔物語集』は1901年に『国史大系』で活字化されています。
さらに、芳賀矢一による注釈入りの『攷証今昔物語集』の出版が1913年です。

また、漱石が英国留学した年に英国より帰国している南方熊楠は幾度となく引用しています。
さらに言えば、熊楠は自分が披露した知識が芳賀にことわりなく引用されていることにずいぶん怒ってます。
熊楠の『今昔物語集』は電子化されているそうで。

南方熊楠ゆかりの「今昔物語」を電子化 - bp-A ニュース | Business & Public Affairs Web Site
近代以前の歴史的典籍(古典籍)は、紙そのものの劣化や、災害による消失リスクが大きな課題となっている。その画像を電子化し、見ため原本と同程度の解像度で保存していくことが求められている。

夏目漱石と南方熊楠は東大予備門(明治政府が最高学府をつくるために全国から秀才を集めた。正岡子規や秋山真之がいた)で同級でした。

下の記述によれば19世紀半ばには図書館もつくられていたそうで、ここで『国史大系』を閲覧することも可能だったでしょう。「見ようとすれば見られた」というのが正しい解釈だと思われます。

図書館について

とはいえ、今ほど一般的なものでなかったのは間違いなく、それを小説のネタにするのは新しかっただろうな、と思います。

なお、『今昔物語集』の原本はここで接することができます。

今昔物語集(鈴鹿本) | 京都大学貴重資料デジタルアーカイブ

鎌倉時代の写本だそうですが、一生懸命読もうとすればこれを読むことも可能です。いい時代ですね。

『攷証今昔物語集』はこの記事がくわしいです。

攷証今昔物語集について : やた管ブログ
古典文学テキストのレベル:2017年07月18日で、やたナビTEXTでは、『今昔物語集』と『宇治拾遺物語』以外は、レベル1(翻刻)とレベル4(校訂本文)の二つのテキストを掲載していると書いた。 『宇治拾遺物語』の方は、かなり昔に入力したため、これだけ形式が違う。いずれ


(文責:草野真一)

巻二十八第二十話 高僧の長い長い鼻の話(芥川龍之介『鼻』元話)
巻28第20話 池尾禅珍内供鼻語 第二十今は昔、池の尾(京都府長岡京市)に、禅智内供(ないぐ、天皇など身分の高い人を修する)という高僧がありました。戒律をよく守り、真言などにも詳しく、行法はたいへん熱心でしたから、池の尾の堂塔・僧房などに...

コメント

タイトルとURLをコピーしました