巻10第11話 荘子□□□許借粟語 第十一
今は昔、震旦の周の時代に、荘子という人がいました。
非常に聡明で、広い知識を持っていましたが、家はとても貧しく、貯えはほとんどありませんでした。
あるとき、荘子はもう今日食べるものすらなく、どうしようかと思い悩んでいました。隣には監河候(河の監督をする役人)が住んでいました。
荘子が隣家に今日食べるのに必要な分の黄の粟(粟にはさまざまな色の品種がある)をわけてもらえないかと頼みますと、監河候は言いました。「五日もすれば、我が家に千両の金が入ります。その頃にお越しください。その金を差し上げましょう。あなたのような貴い賢人様に、今日食べるだけの粟しか差し上げないということがどうしてできましょうか。そんなことをすれば却って私の恥となってしまいます」
荘子は言いました。
「ある日道を歩いていると、後ろから呼ばれたような音が聞こえました。しかし振り向いても誰もおりません。
『どうしたことだろう』と思ってよく見たところ、車の轍の窪んだところに大きな鮒が一匹いたのです。それも、生きて、じたばたもがいていました。
『どうしてこんなところに鮒がいるのだろう』と思って近寄ってよく見ますと、水が少しばかりあるところだったので、鮒は生きて動いているようでした。
私が『どうして鮒がこんなところにいるのか』と問いましたら、鮒は答えました。
『我は河伯神(黄河の神)の遣いとして高麗に行くところだ。我は東の海の波の神なのである。ところが、何ということもなく飛び誤って、この有様だ。水が少なく、喉が渇いて今にも死にそうだ。「助けてくれ」と思ってそなたを呼んだのだ』
私は言いました。『三日後に、私は江湖(河や湖)へ遊びに行くことになっている。その時にあなたを連れて行ってそこに放つことにしよう』
すると、鮒は『このまま更に三日も待つことはならず、我は死んでしまうであろう。今日、ただ一滴の水で良いからまずこの渇きを潤すために与えてくれ』
と言いましたので、鮒の言うことに従って、すぐに一滴の水を与えて鮒を助けたのです。
ですから私も、この鮒が言いましたように、今日何かを食べなければ、そのままこの命が絶えてしまうかもしれません。そうすれば、その後で千金が入ったとしても何の役にも立たないのです」
その時から「後の千金」と言うのはこういう意味で言うのである、と語り伝えられています。
【原文】
【翻訳】 昔日香
【校正】 昔日香・草野真一
【解説】 昔日香・草野真一
故事成語「轍鮒の急」の物語である。

宇治拾遺物語に同じ話がある。










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