巻10第23話 病成人形医師聞其言治病語 第廿三
今は昔、震旦の周の時代に、重い病にかかっている人がいました。名医がいて、この病人を治療してほしいと招きましたところ、医師は承知しました。
この医師がその夜、夢を見ました。その病人の病が二人の童子となって、嘆いているのです。「私たちはこの医師に傷つけられてしまう。どうしたら良いだろう。どこに逃げれば良いだろう」と一人が言いますと、もう一人の童子が、「盲(こう、解説参照)の上や膏(こう、解説参照)の下に入ってしまえば、医師だって私たちを傷つけたり出来ないよ」
そう話し合うのを見たかと思うと、医師は夢から覚めました。
その後、医師はその病人を往診しましたが、「私にはこの病を治療することが出来ません。針も届きませんし、薬も効果がありません」と言って帰ってしまいました。この病人は程なく亡くなってしまいました。
胆の下を盲と言い、胆の上を膏と言います。ここにまで到達してしまった病には治療法がないため、医師もこう言うしかなかったのでした。
その後、また重い病にかかった人がありました。やはりこの医師を招いて治療を願いました。医師が招きを受けて病人の元へ行こうとしていますと、道に二人の鬼が現れて嘆きました。「我らもとうとうこの医師のために傷つけられてしまう。どうしたらいいのだろう」と一人が云いますと、以前見た夢と同じように、もう一人が「なに、盲の上、膏の下に入ってしまえば医師の力も及ばないさ」と言います。先ほどの一人がまた、「八毒丸など服薬させられたりすれば」と言いますと、もう一人が「そうなったら、我らにはもう為すすべがない」と言ったのを聞き、医師は大急ぎで病人のところへ行き、今度は八毒丸を服用させました。病人はこれを飲むと忽ち病が癒えました。
病にも心というものがあって、このように言うと語り伝えられています。
【原文】
【翻訳】 昔日香
【校正】 昔日香・草野真一
【解説】 昔日香・草野真一
※膏肓…体内の最も奥深く病気の治し難い部分。治癒の見込みがないほど病が悪化することを「病膏肓に入る」という。
「膏」は胸骨の下の脂肪組織。心臓の下の部分。「肓」は胸と腹の間の薄膜、すなわち横隔膜をさす。
※八毒丸…李子豫(りしよ)が鬼病に処方したとされる赤い丸薬で、腹痛に効果があるとされる。









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