巻十第二十八話 童子の顔の巨大魚が現れた話

第十

巻10第28話 震旦国王行江鈎魚見大魚怖返語 第廿八

今は昔、震旦の□の時代に、国王が、大臣や公卿、百官をも引き連れて□という大きな入江のある場所に行幸され、釣りをして一日行楽しようと思われました。そこですぐにその入江の辺りに多くの建物が建てられ、その全てが美麗に飾り付けられました。

いざ釣りを始めますと、数え切れないほど多くの魚が釣れましたので、国王と大臣、公卿たちはこれを見て大いに喜ばれました。そしてこれらの魚を膾(なます)にしたり、その他様々に調理して膳をこしらえさせ、食べようとしている間に早くも日が暮れかかり、晩方となりました。

その時、入江の水面を見ますと、何やら怖ろしげな様子になっています。国王を始めとして、その場にいた人々はこれを見て大層恐れ、怖気づきました。

すると何物かが水面に姿を現しました。見ると、大きな魚のようです。その長さは一丈(約3メートル)以上もありました。それは確かに魚の形をしておりましたが、頭を見ると童子の頭でした。目は異様なほどきらめき、恐ろしいことこの上ありません。鼻も口もあって、まさに人のようでした。

それは国王に向かって大音声で申しました。「なんと悲しいことか。今日国王はこの入江に来られて、おのが楽しみのために多くの魚を殺生なされた。王よ、これより後はこのように殺生をすべきではない」その声はきわめて恐ろしく、皆は、残っていた魚も、膾に造っていたものも全て入江に投げ棄てました。入江の水の中に戻ると、膾までもが元の姿を取り戻して生き返りました。その後、先ほどの大きな魚も戻ってきた魚たちを引き連れて水中に姿を消しました。

その様子をご覧になって国王はますます恐怖を感じられ、あっという間に大臣や百官を連れて王宮に還っておしまいになったと、語り伝えられています。

【原文】

巻10第28話 震旦国王行江鈎魚見大魚怖返語 第廿八
今昔物語集 巻10第28話 震旦国王行江鈎魚見大魚怖返語 第廿八 今昔、震旦の□□代に、国王、大臣・公卿・百官を曳き将て、□□と云ふ大なる江有る所に行幸して、魚を鈎(つり)て、逍遥する事有けり。忽に、江の辺に多の屋を造て、其の荘(かざ)り、美麗を尽せり。

【翻訳】 昔日香

【校正】 昔日香・草野真一

巻十第一話 偉大なる帝(始皇帝と秦①)
巻10第1話 秦始皇在咸陽宮政世語 第一 今は昔、震旦(中国)の秦の時代、始という皇帝がありました。賢い智恵と勇猛な心をもって政治をおこない、国内に随わぬ者はありませんでした。少しでも意見が異なる者があった場合には、その首を切り、手足を落...
巻五第二十八話 巨大な魚の王に出会った船乗りの話
巻5第28話 天竺五百商人於大海値摩竭大魚語 第廿八 今は昔、天竺で五百人の船乗りが宝を求めるために航海していました。梶取(船長)が楼の上の人に問いました。 「なにか見えるか」 楼上の人が答えました。 「太陽がふたつ見えます...
第十
スポンサーリンク
スポンサーリンク
ほんやくネットをフォローする
スポンサーリンク
今昔物語集 現代語訳

コメント

タイトルとURLをコピーしました