巻10第4話 漢武帝以張騫令見天河水上語 第四
今は昔、漢の武帝の代(前147~前87)に、張騫(ちょうけん)という人がいました。
皇帝が彼を召し出して、「天の川の上流がどこにあるのか尋ねて来い」と仰せになりましたので、張騫はその宣旨を承り、水に浮いている流木に乗って川の上流をどこまでも遡って行きますと、一つの場所に行き着きました。その場所は、今まで見たどんな場所とも違っております。そこに、普段身の回りにいる人々とは全く異なる様子の人がいて、機をいくつも立てて布を織っていました。また、見知らぬ翁が牛を引いて立っていました。
張騫が「ここはどういうところなのですか」と尋ねますと、「ここは天の川である」と答えが返ってきました。張騫がまた、「ここにいるあなた方はどういう方なのですか」と問いますと、「私たちは織女と牽牛である」と言われました。
また、「あなたはどういう方なのですか」と問われましたので、「私は張騫という者です。皇帝の仰せに従い、『天の川の上流を尋ねて来い』との命を承りましてまかり越しました」と答えますと、「こここそが、その天の川の上流です。さあもうお帰りなさい」と言われましたので、張騫は帰ることにしました。
皇帝にと奏上しました。
「天の川の上流を求めて川上を遡ってまいりますと、ある所に行き着きました。そこでは織女が布を織り、牽牛が牛を引いておりました。そうして『ここが天の川の上流だ』と申されたのを聞き、引き返して参りました。そこは、この世のどんな場所とも様子の異なるところでした。」
さて、この張騫がまだ戻っていない頃、七月七日に天文学者が参って皇帝にこう奏上しました。「天の川に見たことのない星が出来ました」皇帝はこれをお聞きになって、不思議に思っておられたところ、張騫が戻って来て申し上げたことをお聞きになり、「なるほど、天文学者が『見たことのない星が出来た』と言ったのは、張騫が訪ねて行ったのが見えたのであろう。この者は本当に天の川に行き着いたのに違いない」と張騫の言葉を信じて思われました。
であれば、「天の川は天上にあるが、実際に天に昇ったのではない人でも天の川の中に見えたのだ。これはあの張騫が只者ではないということなのだろうか」と、世の人々はいぶかしんだと語り伝えられています。
【原文】
【翻訳】 昔日香
【校正】 昔日香・草野真一








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