巻四第十四話 森で裸の女に出会った話

巻四

巻4第14話 天竺国王入山見裸女令着衣語 第十四

今は昔、天竺の国王が多くの従者をひきつれて山に入り、狩をしていたときのことです。長く歩いたためひどく疲れ、空腹でたまらなくなりました。見ると、山中に大きな樹があり、その下に金の床几をおいて、裸の女が座っていました。

国王は不思議に思って近くに寄ってたずねました。
「あなたはどこの女性ですか。どうしてここにいるのですか」
女は答えました。
「私は手から甘露(アムリタ、不死の飲料とされる)を出すことができます」
国王は言いました。
「ならば、すぐに出しなさい」
女は国王に手をさしのべ、甘露を出しました。国王はつかれきっていましたが、この甘露を口にして、餓の心がやみ、楽しみの心に変わりました。

アムリタの壺を持つヴィシュヌ神=ヒンドゥーの神の女性の化身 (南インド、タミルナードゥ州ダラスラム、エアアベイツバーラ寺院)

女が裸だったので、国王は衣を一つ脱いで与えました。すると、衣の内から火が出て焼け失せてしまいました。
「自然に火が出たのか」
ふたたび脱いで与えると同じように焼けてしまいます。三度めも焼けてしまいました。

国王は驚き怪しみ、女に問いました。
「おまえの服はなぜこのように焼けてしまうのか」
女は答えました。
「私は前世で国王の后でした。国王はおいしい食事を沙門(しゃもん、僧)に与えて供養していました。また、すばらしい衣服を供養していました。私は食事の供養はしましたが、衣を供養することを禁じました。その果報によって、今、手より甘露を出すことができるようになり、衣を着ることができない報いを受けたのです」

国王はあわれんで問いました。
「その報いは、どうすれば転ずることができるのか」
「沙門に衣を供養して、私のためにと念じてください」
国王は宮に戻ると、すぐに美しい衣を用意しました。沙門を呼んで供養しようとしましたが、国内に沙門がいなかったので、供養することができませんでした。どうすべきか考えたあげく、五戒をたもつ優婆塞(うばそく、在家の修行者)を呼びよせ、ことの次第を語り、「この供養を受納してください」と言い、美しい衣を供養しました。この持戒の優婆塞は、国王の言うとおりに衣を受け取り、呪願しました。

その後、王は女に衣をあたえ、着せました。因縁が整ったためでしょう、女の障りはなくなり、衣を着られるようになりました。

夫妻で沙門を供養しようとするときは、心を合わせてしなければならないと語り伝えられています。

【原文】

巻4第14話 天竺国王入山見裸女令着衣語 第十四
今昔物語集 巻4第14話 天竺国王入山見裸女令着衣語 第十四 今昔、天竺の国王、多の人を曳将て、山に入て、狩し給ふに、善く行き羸(つか)れて、極(こう)じ給へるに、見れば、山の中に大なる樹有り。其の本に、金の床を立てて、其の上へに裸なる女居たり。

【翻訳】 柴崎陽子

【校正】 柴崎陽子・草野真一

【協力】 草野真一

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