巻3第24話 目連尊者弟語 第(廿四)
今は昔、仏(釈尊)の弟子である目連(目犍連、モッガラーナ)尊者に、一人の弟がありました。家は大変裕福で、財宝も豊かに持っていました。しかし、弟はまったく善根を積もうとせず、ただひたすらに、この世の欲に溺れて暮らしていました。
ある時、目連は弟の家へ行き、こう教え諭しました。
「善行を修しなさい。命が終われば、三悪道(地獄・餓鬼・畜生)に墜ち、計り知れない苦しみを受けることになる。その時、この世の財宝が身に添って助けてくれることはない。功徳を積む者だけが、三悪道に墜ちることなく、善所に生まれることができるのだ」
弟は答えました。
「父母は『家にいて、思うまま人生を楽しみなさい』と教えてくれました。法師とはつまらぬものです。物を乞う心があるのは、ひどく卑しく、憎く思います。そもそも、功徳とは何のことを言うのですか?」
目連は答えました。
「功徳とは、一つの物を人に施せば、その徳によって、万倍もの物を得られるということだ」
すると弟は答えました。
「ならば、あなたの言う通り、人に物を施しましょう」
弟は一棟の倉庫を開き、財宝を取り出し人々に与え始めました。
しかし一方で、弟はすぐに五、六棟もの新しい倉庫を建てました。ある人が尋ねました。
「なぜ急に倉庫を建てるのか」
「功徳(という品物)を蓄えるためです」
こうして九十日間、人々に財宝を施した後、弟は目連に尋ねました。
「あなたは『仏は決して嘘をつかない』と言いましたが、どういうことですか。私の新しい倉庫には、ちっとも功徳(という宝)が満ちていないではありませんか」
目連は言いました。
「では、私の袈裟(けさ)をつかみなさい」
そして、四天王天・忉利天・夜摩天・兜率天・楽変化天・他化自在天(六欲天)へと共に昇り、見せて回りました。そこには様々の娯楽や、言葉では言い尽くせないほどの不思議な光景が広がっていました。
第六の天である「他化自在天」に至ると、そこには三十九重もの垣根がめぐらされ、その内側にそれぞれ一人の美しい女がいました。 瑠璃(るり)の女は瑠璃の椅子に座り、瑠璃の糸をかけて、瑠璃の衣を縫っていました。また、車渠(しゃこ:美しい貝)の女は、車渠の椅子に座り、車渠の糸をかけ、車渠の衣を縫っていました。最後の門では、金の女が金の椅子に座り、金の糸で金の衣を縫っていました。
弟はこれらを一つ一つ見て思いました。
「転輪聖王の娯楽の家にも、これほど美しい女はいない。忉利天の喜見城にも、わが国の波斯匿王(プラセーナジット王)の宮殿にも、これほど素晴らしい女はいない。実に不思議なことだ」
弟は歩み寄り、女たちに尋ねました。
「あなた方は誰ですか。何のために糸をかけ、誰のために衣を縫っているのですか」
天女は答えました。
「これは、娑婆世界(現世)にいる、釈迦牟尼如来の御弟子、目連尊者の弟君のためです。彼が善行を積み、この天に生まれてくることになっているので、その準備のために衣を縫っているのです。私たちも、その方の眷属(侍女)としてお仕えすることになっています」
この言葉を聞いて、弟は飛び上がって喜び、言いました。
「兄の目連は、嘘をついてはいなかった。何度生まれ変わっても出会うべき導師(生々世々の善知識)だ」
彼は人間世界(閻浮提)に戻り、さらに熱心に善行を修しました。
「あの弟はかならず第六天(他化自在天)に生まれ、この上ない楽しみを受けるだろう。その寿命は、人間世界の千六百年を一日一夜として、一万六千年にも及ぶ。その命が尽きた時、彼は仏道に入る(さとりを開く)だろう」
仏はそう説かれたと語り伝えられています。
【原文】
【翻訳】 草野真一
【解説】 草野真一
目連は神通第一と呼ばれ、釈尊の弟子の中でもっとも神通力(超能力)に通じていたといわれる。もともとある教団のリーダー格であり、彼の帰依が初期仏教教団の拡大につながった。











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