巻三第九話 金翅鳥から竜の子を守った袈裟の話

巻三

巻3第9話 竜子免金翅鳥難語 第(九)

今は昔、全ての竜王は大海の底を住処としていましたが、彼らは必ず金翅鳥(こんじちょう)から恐怖を受けていました。無熱池(あらゆる川の源)という池がありましたが、そこだけは金翅鳥の難はありませんでした。

あるとき大海の底にいる竜が子を生みました。そこで金翅鳥は羽で大海を扇ぎ干して、竜の子を取って食べようとしました。竜王はこれを嘆き悲しみ、仏の御許に参り「私たちは金翅鳥に子を取られてどうすることもできません。どうしたらこの災難を免れるのでしょうか。」とお尋ねしました。仏は竜王に「お前は、比丘の来ている袈裟の一隅の布きれを取って、その子の上に置きなさい。」とお告げになりました。竜王は仏の教えに従い、袈裟を一片切り取って子の上に置きました。その後、金翅鳥が来て羽を用いて大海を干して竜王の子を探しましたが、どうしても見つけられませんでした。金翅鳥は竜王の子を取ることができず、ついには帰りました。

この鳥を迦楼羅(かるら、ガルーダ)鳥ともいいます。この鳥の両翼の長さは三百三十六万里であり、羽の大きさや威力は想像を絶するものです。また、袈裟は尊び敬い奉るべきものです。その一切れを置いただけで金翅鳥の災難を免れることができたのです。

このことから袈裟を身につけている比丘は仏のように敬うべきものです。たとえ破戒の比丘であっても軽んじたり侮ったりすることはいけないと語り伝えられています。

Garuda guardian sculptures (two on right side), Banteay Srei temple, Cambodia.

【原文】

巻3第9話 竜子免金翅鳥難語 第(九)
今昔物語集 巻3第9話 竜子免金翅鳥難語 第(九) 今昔、諸の竜王は大海の底を以て栖(すみか)とす。必ず金翅鳥の恐れ有り。亦、竜王は無熱池と云ふ池有り。其の池には、金翅鳥の難無し。大海の底に有る竜の、子を生たるを、金翅鳥、羽を以て大海を扇ぎ干て、竜王の子を取て食とす。

【翻訳】 吉田苑子

【校正】 吉田苑子・草野真一

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