巻三第十二話 法を聞くオウムの来世の話

巻三

巻3第12話 須達長者家鸚鵡語 第(十二)

今は昔、天竺に須達(スダッタ)長者という長者がいました。仏法を信じ敬い、多くの比丘の檀徒として常に比丘を供養していました。長者の家の中には二羽の鸚鵡がいました。一羽は律提(りつだい)といい、もう一羽は賒律提(しゃりつだい)といいました。この鳥は畜生といっても智恵があり、比丘が来るときにはまずこの鳥が出て比丘を見て、家の中に入って長者に伝え迎えたり送ったりします。このようにして長年過ごしていました。

あるとき阿難(アーナンダ、釈尊の身の回りの世話をした弟子)が長者の家に来て、この二羽の鳥の聡明な様子を見て、鳥のために四諦の法を説き聞かせました。家の門の前には木があり、この二羽の鳥は説法を聞くために木の上に飛び上がり、説法を聞いて歓喜し信仰を深めました。

その夜、木の上で休んでいた二羽は狸に喰われてしまいました。けれども説法を聞いて歓喜したことにより、この二羽は四天王天に生まれ変わるにちがいありません。そしてその天命が尽きると次第に上の天に生まれ変わり天界最上の他化自在天にまで生まれ変わるでしょう。このように天界を上下することを七回繰り返し、その一つ一つの天命が尽きてから人間界に生まれると、出家して比丘となり仏道修行をして辟支仏となれることでしょう。一人は曇摩(どんま)、もう一人は修曇摩(しゅどんま)と名付けられるでしょう。

これをもって考えるに、説法を聞いて歓喜する功徳は計り知れないことだと語り伝えられています。

【原文】

巻3第12話 須達長者家鸚鵡語 第(十二)
今昔物語集 巻3第12話 須達長者家鸚鵡語 第(十二) 今昔、天竺に須達長者と云ふ長者有けり。仏法を信じ敬て、諸の比丘の為に、檀越として常に比丘を供養す。 其の家の内に、二の鸚鵡と云ふ鳥有り。一をば律提と云ふ。一をば賒律提と云ふ。此の鳥、畜生也と云へども、心に智恵有て、其の家に比丘の来る時は、此の鳥、先づ出て比丘...

【翻訳】 吉田苑子

【校正】 吉田苑子・草野真一

【解説】 草野真一

須達は祇園精舎の土地を買い取った大金持ちで、用地のすべてに金貨を敷き詰めてそれを対価としたと伝えられる。オウムは人語を解する美しい鳥として、特別なものと考えられていた。

巻一第三十一話 祇園精舎をつくった話
巻1第31話 須達長者造祇薗精舎語 第卅一今は昔、天竺の舎衛国(しゃえこく、コーサラ国)に一人の長者(富裕な人)がおりました。名を須達(すだつ、スダッタ)といいます。彼は一生の間に、七度富貴を体験し、七度貧窮に苦しみました。七度目の貧は、...
巻二第十五話 須達の美しい娘が十の卵を産んだ話
巻2第15話 須達長者蘇曼女十卵語 第十五今は昔、天竺の舎衛城(コーサラ国の首都、祇園精舎がある)の中に(インドでは城の中に街がある)、一人の長者がありました。須達(しゅだつ、スダッタ。祇園精舎をつくった人)といいます。彼のたくさんの子...
巻四第三十六話 美しい鳥に乗って旅立った人々の話
巻4第36話 天竺安息国鸚鵡鳥語 第卅六 今は昔、天竺の安息国の人は仏法を知りませんでした。 この国に鸚鵡(オウム)という鳥が飛んできました。黄金の色をしていて、白いところや青いところもある美しい鳥です。しかも、この鳥は人間のようにもの...
巻二第三十二話 妻子と財産を捨て出家して臂を失った大臣の話
巻2第32話 舎衛国大臣師質語 第(卅二) 今は昔、舎利弗(サーリプッタ)尊者は、常に智恵の眼をもって衆生(人々)を見て、得度すべき者(出家して修行すべき者)を見きわめ、得度させていました。 そのころ、舎衛国(コーサラ国)に波斯匿王(プ...

 

巻三
スポンサーリンク
スポンサーリンク
ほんやくネットをフォローする
スポンサーリンク
今昔物語集 現代語訳

コメント

タイトルとURLをコピーしました