巻3第4話 舎利弗攀縁暫籠居語 第四
今は昔、天竺にて、仏の御弟子達がそれぞれの場所で安居修行を終えて仏の御前に参集なさったとき、舎利弗(サーリプッタ)と羅睺羅(ラーフラ)が御前に来られてその左右にお座りになりました。仏は羅睺羅に「私の弟子の中では誰が長老となっているのか。」とお尋ねになりました。羅睺羅は「舎利弗を長老としています。」とお答えしました。
そのときに仏がこの二人をご覧になると、舎利弗は肥えて色白く威厳がありました。羅睺羅は痩せて色黒く骨が出ていました。仏はこれを見て「何故私の弟子の中で舎利弗は肥えているのか。」とおっしゃりました。羅睺羅は「舎利弗は智恵がすばらしく、この国の者は貴賤を問わずこの人を師と仰いでいます。そのため人々が味のよい御馳走を運んでくるので太っているのです。羅睺羅はそうではないので痩せているのです。」と答えました。仏は「私の教えでは乳酪に類する食物は禁じているのに、なぜ舎利弗は肥えているのか。」とおっしゃりました。舎利弗はこれを聞いて憤り、隠れこもってしまいました。
その後、国王・大臣・長者が舎利弗のところに詣り贈り物をするといっても一切受け入れません。そのときに国王・大臣・長者・諸官らが皆こぞって仏に詣りて、「仏よ、願わくは舎利弗をお呼びして『我らの招きを受けよ』とお伝えください。仏は人の招きをお受けになりません。舎利弗もまた人の招きをお受けにならないとなれば、我々は誰を師として仏事に励んだらいいのでしょうか。」と申し上げました。
仏はこの衆に「舎利弗は前世で毒蛇であった。その頃の心が深く染みついているために、私の言葉を聞いて恨み心を起こしたのだ。」とお告げになりました。そしてすぐに舎利弗をお呼びになり「お前はすぐに人の招きを受けて仏法のために師僧となりなさい。」とおっしゃりました。それから舎利弗は仏の教えに従い、元通り国の多くの人の招きを受けて仏事に勤めることになったと語り伝えられています。
【原文】
【翻訳】 吉田苑子
【校正】 吉田苑子・草野真一
【解説】 草野真一
安居とは日本仏教にもある修行の形態だが、インドでは雨期の間は外出できないために発達したものだ。
舎利弗は目蓮ともに釈尊の高弟となった人。羅睺羅は釈尊のじつの息子(王子の身分を持つ人!)である。出家した父の後を追い、弟子となった。
本話では舎利弗が太っていることが話題になっている。ダイエットが常識となっている現代では妙に思えるが、痩せている=食べられない=貧しいという価値観のもとでは太っていることはステイタスのひとつだった。この価値観は途上国では今でも普通に見られる。
【協力】ゆかり・草野真一
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