巻1第9話 舎利弗与外道術競語 第九
今は昔、釈迦如来の弟子・舎利弗(しゃりほつ/シャーリプトラ/サーリプッタ)尊者は、外道(仏教以外の教えを奉ずる者)の子でした。母の胎内にあるうちから智恵があり、母の腹を破って出てこようとしました。母はこれを防ぐために、鉄の帯をしめていたといいます。
長爪梵志(ちょうそうぼんじ、一切を学ぶまでは爪を切らないという誓いをたてた。のちに仏弟子)という外道の弟子となり、その典籍を学びました。その後、仏弟子・馬勝比丘(めしょうびく)から四諦(したい)の法を聞き、外道の門徒であることをやめ、釈迦の弟子になり、初果(僧の最初の成果)を得ました。その七日後に阿羅漢果(あらかんか、僧の最高の成果)を得ています。仏に直接、教えを聞いたためです。
これをねたみ、大智外道・神通外道・韋随外道などを中心とする何人かの外道が、舎利弗と術を競うことになりました。日程が決まりますと、このことが十六の大国(インド中というほどの意味)の話題となり、上中下、身分の差別なく、市ができるほどに見物人が集まりました。
勝軍王という大王の前で、術競べはおこなわれました。外道は無量と言っていいほど数多くいましたが、舎利弗はただひとり座っていました。外道は舎利弗をとりかこみ、術を現じました。
まず、外道は舎利弗の頭の上に大樹を現して、頭を打ち砕こうとしました。舎利弗は嵐を起こし、樹を吹き飛ばしてしまいました。
次に、外道は洪水を起こしました。舎利弗は大象を出し、これを一瞬で吸い込んでしまいました。
続いて、外道は大山を出現させました。舎利弗は力士を出し、力士は山を打ち砕いてしまいました。
外道が竜を出すと、舎利弗は(竜の天敵の)金翅鳥(こんじちょう)を出して、追い払ってしまいました。
さらに、外道が大牛を現すと、舎利弗は獅子を出して、牛を近くに寄せませんでした。
外道が大夜叉(鬼神)を出すと、舎利弗は毘沙門(夜叉を屈服させ家来とした)を出し、夜叉を降伏させてしまいました。
舎利弗がすべての勝負に勝ち、多くの外道を破ったために、その師である釈迦の面目・法力が貴く勇猛であることが天竺じゅうに知れわたりました。
これを機会として、多くの外道が舎利弗尊者の弟子となり、仏の道を歩んだと伝えられています。
【原文】
【翻訳】
草野真一
【校正】
草野真一
【協力】
草野真一
【解説】
草野真一
舎利弗は舎利子とも呼ばれる。
智恵第一といわれ、釈尊の後継者と考えられていたが、釈尊より早く没している。年長であったらしい。あの『般若心経』は彼に向かって説かれたものだ。
友人の目連とともに、懐疑論者として大きな注目を集めていたサンジャヤ尊者の弟子として修行していたが、釈尊と出会い250人を引き連れて弟子となった。これが最初の仏教教団である。仏教が現代まで続く教えとなったのは彼があったからだと言っても過言ではない。
このエピソードはその逸話を下敷きとした超能力合戦である。荒唐無稽で楽しい。
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