巻二第三十五話 猪の頭をもつ異形の天人の話

巻二(全)

巻2第35話 天竺異形天人降語 第(卅五)

今は昔、天竺に一人の天人が降りたちました。全身は金色に輝いていましたが、頭は猪の頭でした。不浄の所から生ずるさまざまな生物を求めて食していました。

人々はこの天人を見て、奇異に思い、仏にたずねました。
「この天人は、前世にどんな業があって、身の色は金色ながら、頭は猪であり、不浄に生ずるものを求め食するのですか」

仏は説きました。
「過去の九十一劫(一劫は宇宙が誕生し消滅する時間)の時、毗婆尸仏(ぴばしぶつ、過去七仏で最初の仏)という仏が世に出なされた。そのとき、この天人は、女人と生まれ、人の妻であった。家に沙門が来て、乞食(托鉢)した。夫は『金を施しなさい』と言ったが、妻は慳貪であったために心を誤まり、顔を赤くして怒り、夫が金の施しをするのを止めた。その罪によって、この妻は、九十一劫の間、報を受けている。身が金色なのは、一度この沙門に会って、腰をかがめて礼拝したことがあるからだ。その功徳によって、金色の身を得て、光を放っている。天に生まれても、このように悪業は残るものなのだ」
そう説いたと語り伝えられています。

【原文】

巻2第35話 天竺異形天人降語 第(卅五)
今昔物語集 巻2第35話 天竺異形天人降語 第(卅五) 底本、欠文。標題もなし。底本付録「本文補遺」の鈴鹿本により補う。 今昔、天竺に一人の天人降たり。其の身、金色也。但し、頭は猪の頭也。諸の不浄所生の類を求め食す。

【翻訳】 草野真一

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