巻2第18話 金地国王詣仏所語 第(十八)
今は昔、天竺の南の方に、金地国(ミャンマー)という国がありました。その国に摩訶劫賓那(まかこうれいな)という王がありました。王は聡明で智恵があり、強い力と勇猛な心を持っていました。意気さかんな四万六千の兵があり、敵対する者はなく、恐れはまったくありませんでした。
ある日、仏は神通力をもちいて、この王を仏所に招きました。王は二万一千の小王をひきつれて仏所に参りました。仏は彼らのために法を説きました。これを聞き、みなが須陀?果(聖者の位)を得ました。その後、出家を望みました。仏はこれを許しました。多くの者がが出家し、羅漢果(聖者の上の位)を得ました。
阿難(アーナンダ、釈迦の身の回りの世話をした若い弟子)はこれを見て問いました。
「金地国の王は、過去の世でどんな福をたくわえたために、福貴の国の王と生まれ、偉大な功徳を得て、一万八千の小王とともに仏に会い、出家して、道を得ることができたのですか」
仏は答えました。
「昔、迦葉仏(かしょうぶつ、過去七仏の第六)が涅槃に入った後、二人の長者があった。塔をたてて、衆僧を供養した。長い年月がたち、その塔は崩れ壊れた。一人の人があり、一万八千の下人をつかって、その塔を修治するとともに、衣食・床臥の具で僧を供養した。彼は願った。
『願わくは、この功徳をもって、福貴の家に生まれたい。また、仏が世に出たときに出会い、法を聞き、その果を得たい』
壊れた古い塔を修治し、僧を供養したのは、今の金地国の王である。以来、悪道に堕ちず、天上に生まれ、常に福を得、楽を受けて、今、私と出会い、出家して道を得ることができたのだ。王がひきつれてきた一万八千人の小王はみな、昔、塔を修治した人である。この果報によって、今、解脱の道を得た」
そう説いたと語り伝えられています。
【原文】
【翻訳】 草野真一
【解説】 草野真一
金地国とは現在のミャンマー南部にあった国である。
アショーカ王(阿育王)がこの地に住む羅刹女(鬼おんな)を教化するため梵網経を説かせたという伝説がある。羅刹女は原住民の象徴だろう。女性差別が一般的だった時代であるから、羅刹女の意味も推して知るべし。
征服者が被征服者を統べるために宗教をもちいるのはキリスト教やイスラム教によく見られるが、仏教にもあったことがわかる。
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