巻一第三十五話 伎楽で仏を供養した人たちの話

巻一(全)

巻1第35話 舎衛城人以伎巻1第35話 舎衛城人以伎楽供養仏語 第卅五

今は昔、天竺の舎衛城(しゃえじょう、コーサラ国)に、着飾って伎楽をうたい、城を出て舞い踊る人たちがありました。

あるとき、仏が多くの弟子をつれて、乞食(托鉢)して城門に至ることがありました。伎楽をする人たちは、仏に出会えて、歓喜して礼拝し、伎楽をうたって仏とその弟子を供養しました。

仏はこれを見てほほえみ、阿難(あなん、アーナンダ、釈尊の身の回りの世話をした僧)に語りました。
「伎楽をうたって私を供養してくれた人々は、この功徳によって、来世、一百劫(数え切れないほど長い時間)、三悪道(地獄、餓鬼、畜生)に堕ちることはない。天の人となって、楽を受けるだろう。その後は、みな辟支仏(びゃくしぶつ、縁覚。悟った人)となって『妙声』と呼ばれるだろう」

伎楽をもって三宝(仏法僧)を供養する功徳は無量であると語り伝えられています。

【原文】

巻1第35話 舎衛城人以伎楽供養仏語 第卅五
今昔物語集 巻1第35話 舎衛城人以伎楽供養仏語 第卅五 今昔、天竺の舎衛城の中に、諸の人有て、自の身を荘厳して、伎楽を唱て、城を出て遊戯す。 城の門に至る間、仏、諸の御弟子等を引具し給て、乞食し給まはむと為るに、此の伎楽を唱ふる輩、仏を見奉て、歓喜し礼拝して、伎楽を唱て、仏及び、御弟子の比丘僧を供養して去ぬ。

【翻訳】
草野真一

【解説】
草野真一

伎楽とはいわば音楽劇で、奈良の薬師寺などでは今でも上演されている。

玄奘三蔵会大祭伎楽(薬師寺)

伎楽面。迦楼羅 東京国立博物館(法隆寺献納宝物215号)

これはインドの話だから、日本古来の伎楽ではなくて、シタールとかタブラとかを使った、現在ではインド音楽と呼ばれるものと思われる。

縁覚(辟支仏)になると、みな一様に「妙声」と呼ばれるそうだ。名前が重なっていてもいいのですね。趣ぶかい。

舞台である舎衛城は祇園精舎があったところ。インドなどでは城の中に都市がある。
法苑珠林」より得た話。

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