巻二十第二十一話 罪のために牛として生まれた男の話

巻二十(全)

巻20第21話 武蔵国大伴赤麿依悪業受牛身語 第廿一

今は昔、武蔵の国多摩の郡(東京都心・都下)の大領(郡司の最高位)に、大伴の赤麿という人がありました。天平勝宝元年(西暦749年)の十二月十九日に、亡くなりました。

翌年五月七日、その家に、黒い斑のある子牛が生まれました。その牛の背にこう書いてありました。
「赤麿は寺の物を勝手に借用して、返納せずに死んだ。それを償うため、牛として生まれた」

赤麿の一族や同僚はこれを見て、おおいに恐れました。
「罪をつくれば、必ずその報いがある。これは必ず記録しておかねばならない」
これを記録し、同年六月一日、多くの人を集め、この記録を見せました。

もともと懺悔の心がなかった者は、これを見て、はじめて心を改めて、善を行じました。以前から因果を知る者は、いよいよ心をつくし、悪行を止めました。

たとえ銅の湯を飲まなければならないとしても、寺の物を食ってはなりません。大いなる罪のあることであり、決して犯してはならないことです。そう語り伝えられています。

【原文】

巻20第21話 武蔵国大伴赤麿依悪業受牛身語 第廿一
今昔物語集 巻20第21話 武蔵国大伴赤麿依悪業受牛身語 第廿一 今昔、武蔵の国多摩の郡の大領として、大伴の赤麿と云者有けり。天平勝宝元年と云ふ年の十二月十九日に、忽に赤麿死す。

【翻訳】 草野真一

【解説】 草野真一

お寺にモノ借りたら返さなきゃいけないよ。返してから死なないと動物に生まれ変わっちゃうよ。寺は金貸しやってたので、ちょっと脅迫っぽい。話に日付と場所がきちんと記述されたまれな例。

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