巻二十四第四話 袖から何十本も針を抜き出し立ててみせる老婆の話

巻二十四

巻24第4話 於爪上勁刷返男針返女語 第四

今は昔、□天皇の御代に、右近の陣に□の春近という舎人がありました。蹴鞠を得意としていました。

その春近が後の町(后町)の井の井筒によりかって、若い女たちが水汲みにたくさんやってくるのに見せようとして、鞘から勁刷(こうがい。かんざし)を取り出して、手の爪に立て、井戸の上に差し出して、四、五十度ほどひっくり返して見せました。多くの人が集まって、おおいに興じ、感じ入りました。

そのとき、年老いた女がやってきて言いました。
「おもしろいことをする人があるものです。昔もこんなことができる人はいませんでした。では、私もやってみましょう」
老婆は袖に差した針を抜き出して、糸をつけたまま爪の上で四、五十度ばかりひっくり返してみせました。人々はおおいに驚きました。

春近はこれを見て、勁刷を鞘におさめてしまいました。

希有のことです。昔はこんなつまらないことでも、可能な者があったのだと語り伝えられています。

蹴鞠をする徳川吉宗。月岡芳年画

【原文】

巻24第4話 於爪上勁刷返男針返女語 第四
今昔物語集 巻24第4話 於爪上勁刷返男針返女語 第四 今昔、□□天皇の御代に、右近の陣に□□の春近と云ふ舎人有けり。鞠をなむ極く微妙く蹴ける。 其の春近が後の町の井の筩(つつ)に押懸り立て、若き女共などの数(あまた)有けるに、「見せむ」と思て、鞘より勁刷(かうがい)を取出て、手の爪に立てて、井の上に差出でて、四...

【翻訳】 葵ゆり

【校正】 葵ゆり・草野真一

【協力】 草野真一

巻二十四
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今昔物語集 現代語訳

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