巻6第19話 震旦并州道如造弥陀像語 第十九
今は昔、震旦の并州に、道如という僧がありました。晋陽の人です。道綽法師の孫弟子にあたります。慈悲深く、すべての人をあわれむ心がありました。
往生浄土の業を修しましたが、自分よりまず他を救いたいという願を発し、三途(地獄・餓鬼・畜生の三つの世界)に沈んだ衆生の苦を救うために、丈六(一丈六尺、約4.85メートル。仏像にもっとも適当とされる大きさ)の阿弥陀仏の金色の像をつくりました。貧しいために三年かかりましたが、心をもっぱらにして供養しました。かぎりなく礼拝恭敬しました。
道如はこの像の御前で、夢を見ました。一人の冥官(冥府の役人)があらわれて、金紙の牒書(公文書)を持ってきて、道如に告げました。
「これは、閻魔法王が願を喜ばれ、わたされた牒書である」
道如がこれを開いてみると、こう書かれていました。
「法師は三途の受苦を受けている衆生を救うために、阿弥陀仏の像をつくった。今、その像は地獄の中で、受苦の衆生を教化している。生身の仏とまったく異ならない。像が光を放ち、法を説いている。不思議なことだ。地獄の衆生はこれを聞いて、みな苦を離れ、楽を得ている」
夢から覚めると、道如はさらに志を深くして、像を礼拝恭敬しました。仏の像は胸から光を放ちました。道如の弟子たちの十人のうち、五、六人はこの光を見ました。見た者は希有の思いを抱きました。
ある人が、道如が金色の身を現じて、法を説いて教化する夢を見ました。このような霊験ははなはだ多いものですから、ひとつひとつは語りませんが、ひたすらに願うことは空しいことではないことがわかります。
誠の心を発した人は、自分の出離の計(救われること)よりも、まず他を利益しようとします。仏はこれを菩薩行と説き給うたと語り伝えられています。
【原文】
【翻訳】 西村由紀子
【校正】 西村由紀子・草野真一
【協力】ゆかり・草野真一
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