巻6第17話 震旦開覚寺道喩造弥陀像生極楽語 第十七
今は昔、震旦の隋の代に、開覚寺という寺がありました。その寺に、道喩という僧が住んでいました。年来、阿弥陀仏を念じ、他に思いを致すことはありませんでした。栴檀を材料に、三寸(約10センチ)の阿弥陀の像をつくりました。
ある日、道喩がとつぜん死にました。七日間葬らずにいると、七日目に生き返り、言いました。
「私が死んだとき、一人のやんごとなく気高い人を見た。はじめて見る人だった。この人は七宝の池(極楽にあるといわれる池)の辺に行き、蓮の華の周囲を三度まわった。すると、華がみな開いた。この人は池に入り、華の上に坐した。道喩もまた彼の人のごとく華を廻ったが開かなかった。手で花をとってみると、しぼんでしまった。
そのとき、阿弥陀仏がいらしゃって、私に告げた。
『汝はしばらく本国に帰り、心を至して諸の罪を懺悔せよ。また、香湯をもって沐浴せよ。明星の出るときになって、あらためて私が汝を迎えよう。また、汝は我が像を造ったようだが、なぜ小さなものなのか。心が大きければ像も大、心が小ならば小である』
仏がそう言い終わると、像は、虚空いっぱいの大きさとなった」
その後、道喩は仏の教えのごとく、香湯をもって沐浴し、心を一にして、諸の罪を懺悔して、人々に告げました。
「道喩を救うために、念仏を修してください」
明星の出る時になって、化仏(形を変えて現れる仏)が道喩のところにやってきました。多くの人がこのことを知っていました。その後、道喩はふたたび死にました。
道喩は極楽に生れたことは疑いない。人々は貴んだと語り伝えられています。
【原文】
巻6第17話 震旦開覚寺道喩造弥陀像生極楽語 第十七
今昔物語集 巻6第17話 震旦開覚寺道喩造弥陀像生極楽語 第十七 今昔、震旦の隋の代に、開覚寺と云ふ寺有り。其の寺に、道喩と云ふ僧住けり。年来、阿弥陀仏を念じ奉て、更に他の思ひ無し。栴檀を以て、三寸の阿弥陀の像を造る。
【翻訳】 西村由紀子
【校正】 西村由紀子・草野真一
【協力】 草野真一
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