巻6第21話 震旦温州司馬造薬師像得活語 第廿一
今は昔、震旦の温州に司馬(軍務官)がありました。とても重い病にかかり、癒えることもなく久しくありました。もはや死ぬばかりだと歎いていました。
親族や従者たちが集まり、泣き悲しみ、歎き合いました。やがて、司馬は死にました。死んでから一日の間、親属や従者(奴婢)たちは家にいて、司馬を惜しみました。生き返らせるために、薬師の像を一日で七体つくり、法にのっとって供養して祈りました。
「仏の誓願が空しいものでないならば、この人を生き返らせてください」
死んでから二日たって、司馬は生き返りました。親族や従者は大いに喜び合いました。
司馬が語りました。
「私が死ぬと、三人の冥官がやってきて、私をしばって連れていった。ひとりの人もいない、とても暗い道を通っていった。やがてある城の中にひきいれられた。見ると高い座があり、玉の冠をつけた神々が並んで座っている。前の庭に、数千人の人がいた。みな、鎖の枷で首をつながれていた。私は冥官に問うた。
『ここはどこですか。この人たちは誰ですか』
『ここは閻魔王がいらっしゃるところだ』
王は私を見て聞いた。
『おまえは善を修したか』
『善を修する前に亡くなりました』
『おまえの悪ははかりがたいほどだ。地獄行きを免れることはできない』
そのとき、光が私の身を照らした。王はこれを見て言った。
『おまえの親族や従者がおまえの家に集まり、七仏の像をつくった。このことによって、おまえの寿命は延びた。人間の世界に戻りなさい』
親族と従者はこれを聞き、喜び貴んで、七仏の像を恭敬供養し礼拝したと語り伝えられています。
【原文】
巻6第21話 震旦温州司馬造薬師像得活語 第廿一
今昔物語集 巻6第21話 震旦温州司馬造薬師像得活語 第廿一 今昔、震旦の□の代に、温州の司馬有て、身に重き病を受て、愈る事無くして、久く有り。然ば、今は偏に死なむずる事を歎き思ふ。
【翻訳】 西村由紀子
【校正】 西村由紀子・草野真一
【協力】ゆかり・草野真一
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