巻二十第三十八話 生きながら地獄の炎に焼かれた男の話

巻二十(全)

巻20第38話 石川沙弥造悪業得現報語 第卅八

今は昔、石川沙弥(しゃみ)という人がありました。幼くして頭を剃りましたが、受戒せず、僧の名を得ませんでした。ただ、石川の沙弥と呼ばれました。妻が河内の国石川の郡(大阪府南河内郡)の人であり、そこに住んでいたからです。

形は僧でしたが、心は盗賊でした。あるときは「塔を造る」と言って人をだまし、財を乞い取って妻に与え、魚や鳥を買わせて食することを仕事としました。あるときは、摂津の国の豊島の郡(大阪府豊能郡)に住み、舂米寺の塔の柱を薪にして焼きました。世に仏法を犯す人は多くいますが、この人に勝る人はいないでしょう。

あるとき、島下の郡の味木の里(大阪府摂津市)で、急に病にかかりました。
「熱い、熱い」
声をあげて叫び、三尺(約90センチ)ほども飛び上がりました。あたりの人はみな集まってきて問いました。
「いったいどうして叫ぶのですか」
沙弥は答えました。
「地獄の火がここに来て、わが身を焼くのだ。叫ばずにいられない」
やがて死にました。

「どれほどの苦を受けているのだろう。哀しいことだ」
見聞く人は思いました。心に任せ、罪を造る者は、このように報を得ます。人は決して罪を造ってはならないと語り伝えられています。

大地獄絵・大焦熱地獄(天理市長岳寺)

【原文】

巻20第38話 石川沙弥造悪業得現報語 第卅八
今昔物語集 巻20第38話 石川沙弥造悪業得現報語 第卅八 今昔、石川沙弥と云ふ者有けり。幼なくして頭を剃たりと云へども、受戒せずして、其の名無し。只、世に石川の沙弥と云ふ。其の故は、其の沙弥の妻、河内の国石川の郡の人なるに依て、沙弥、其(そこ)に住ば云ふ也けり。

【翻訳】 草野真一

【解説】 草野真一

その人はたしかに地獄にいて苦を感じているが他の者にはそれが見えないというモチーフは時折ある。現代においても同じかもと思う。目の前の彼が借金地獄にいるなんてわからない。

巻二十第三十話 現世で地獄の炎に焼かれた男の話
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