巻17第43話 籠鞍馬寺遁羅刹鬼難僧語 第四十三
今は昔、一人の修行僧が鞍馬寺(京都市左京区)に籠り、修行していました。
ある夜、薪を拾い、火をつけてくべていると、夜がさらに深くなったころ、羅刹鬼が女の姿になって、僧の前に座り、火をくべました。僧は思いました。
「これはただの女ではない。鬼だろう」
僧は金杖を焼いて鬼の胸に突き立てて逃げ去り、堂の西にある朽木の下に隠れて、ちぢこまっていました。
鬼は胸に焼けた金杖を突き立てられて、大いに怒り、僧の逃げ去った後を追って走り来ました。僧を見つけると、大口を開けて、僧を食おうとしました。僧は大いに恐怖しながら、心を至して毘沙門天を念じ、「私を助けてください」と言いました。
そのとき、にわかに朽木が倒れて、鬼を圧して殺しました。僧は命をたすかり、いよいよ毘沙門天を念じ奉りました。
夜が明けてから見ると、倒れた朽木が鬼を打ち圧していました。僧はこれを見て、涙ながらに毘沙門天を礼拝し奉り、鞍馬寺を去りました。これを聞く人は、毘沙門天の霊験のあらたかなることをいよいよ信じ、貴んだと語り伝えられています。
【原文】
巻17第43話 籠鞍馬寺遁羅刹鬼難僧語 第四十三
今昔物語集 巻17第43話 籠鞍馬寺遁羅刹鬼難僧語 第四十三 底本、標題のみで本文を欠く。底本付録「本文補遺」の鈴鹿本により補う。 なお、鈴鹿本の標題は、「籠鞍馬寺遁羅刹難僧語」となっている。
【翻訳】 草野真一
【解説】 草野真一
鞍馬寺の本尊は毘沙門天とされており、金堂に安置されている。これは秘仏であり、開帳されるのは六十年に一度のみだ。この本尊の前に「お前立ち」と称する代わりの像が置かれており、鞍馬天狗と呼ばれている。幼少の源義経に剣術を教えたという伝説があり、時代劇のヒーローとして、幾度となく映画化・ドラマ化された。
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