巻27第6話 東三条銅精成人形被掘出 第六
今は昔、東三条殿に式部卿宮(重明親王)と申し上げる人がお住まいになられていた時に、南の山に三尺(約90cm)くらいの太った五位が時々歩いていたのを、式部卿宮がご覧になられて不審に思われていましたが、既に何度も五位が歩いていたので、優れた陰陽師をお召しになられて、その祟りをお尋ねになった所、陰陽師は「これはもののけでございます。ただし、人に害を与えるものではございません」と占い申し上げたので、「その霊はどこにいるのだ。また、何の精なのだ」とお尋ねされると、陰陽師は「これは銅の器の精でございます。宮(東三条殿)の南東の土の中にあります」と占い申し上げたので、(重明宮は)陰陽師の言うとおりに南東の方の地面に限って占わせ、その辺りの所の地面を三尺(約90cm)くらい掘らせてみましたが、何もありませんでした。陰陽師は「さらに掘るべきです。ここであることは間違いありません」と占い申し上げたので、五・六寸(約15~18cm)くらい掘ると、五斗入りの銅の提(ひさげ)が掘り出されました。その後はこの五位が歩くことはなくなりました。
その銅の提が人になって歩いていたのでしょう。
器物の精はこうして人になって現れるのだと、皆が知ることになったと語り伝えているということです。
【原文】
【翻訳】 長谷部健太
【校正】 長谷部健太・草野真一
【協力】草野真一
【解説】長谷部健太
[重明親王]…醍醐天皇第四皇子。上野太守、弾正尹、太宰帥、中務卿、三品。才学天下無双、笙・琵琶の名手。天暦四年九月十四日薨去。
器物の霊ということで、後世の九十九神(つくもがみ)の原型だろうか。
陰陽師が何もかもお見通し、マジカルな期待を一身に集めていたことがわかる。
【参考文献】
日本古典文学大系『今昔物語集 四』(岩波書店)
『今昔物語集 本朝世俗篇(下)全現代語訳』(講談社学術文庫)
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