巻六第二十五話 阿閦仏を信じ歓喜国に生まれた人の話

巻六(全)

巻6第25話 震旦鐫恵造阿閦仏生歓喜国語 第廿五

今は昔、震旦の隋の開皇の代に、鐫恵(せんえ)という僧がありました。出身地はわかりません。一生の間、不退転の位であることを期して、阿?仏の像を図絵すること一千躯、身の丈三尺(約0.9メートル)の立像をつくること十二躯でした。

あるとき、鐫恵の夢の中に二人の僧があらわれました。二人とも名前があり、一人を日光、一人を喜辟(きびゃく)といいました。二人は鐫恵に告げました。
「おまえは阿閦仏(あしゅくぶつ)の像を図絵し、像をつくっている。かの仏の本願を知っているか」
「ほぼ知っています」
二人の僧は歓喜して言いました。
「素晴らしい。おまえは穢濁悪世の中で、ことに阿閦如来に帰依している。それによっておまえは一生の間に不退転の位に入り、やがて歓喜国に生まれるだろう」
目覚めた後、鐫恵はいよいよ深く阿閦を念じ、かぎりなく礼拝恭敬しました。

鐫恵は臨終のとき、人々に告げました。
「私は年来、阿閦仏を念じてきた。今、歓喜国に生まれる」

「願いに随って、みな浄土に生まれることができる」
人はそれを理解したと語り伝えられています。

阿閦仏 ’The Dhyani Buddha Akshobhya’, Tibetan thangka, late 13th century, Honolulu Museum of Art accession 6191.1. The background consists of multiple images of the Five Dhyani Buddhas.

【原文】

巻6第25話 震旦鐫恵造阿閦仏生歓喜国語 第廿五
今昔物語集 巻6第25話 震旦鐫恵造阿閦仏生歓喜国語 第廿五 今昔、震旦の隋の開皇の代に、鐫恵と云ふ僧有けり。何れの人と云ふ事を知らず。一生の間、不退転の位を期して、阿閦仏の像を図絵し奉る事一千躯也。亦、同じ仏の立像を造り奉れる事十二躯、身の長け三尺也。

【翻訳】 西村由紀子

【校正】 西村由紀子・草野真一

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