巻6第48話 震旦童児聞寿命経延命語 第四十八
今は昔、震旦(中国)の唐の玄宗の代、開元の末(開元は713~741)に、ひとりの相師(占い師)がありました。まるで掌を指すように、人の命の長短を言い当てました。
ある日、相師は資聖寺(浙江省)という寺の門の内におりました。門外で命は今日かぎりだと語る声が聞こえてきます。
相師は驚いて、急いで門の外に出てみると、童児がひとりありました。端正なすがたをしていました。相師は問いました。
「おまえはいくつか」
「十三歳です」
相師はかわいそうに思いました(寿命が短いのを知った)が、かける言葉もなく、門の内に入りました。
翌日、同じ場所でこの童児に会いました。寿命を見ると、七十余歳になっていました。相師は不思議に思って、童児に問いました。
「昨日おまえを見たときには、寿命は昨日いっぱいだった。しかし、今日は七十余になっている。どんな善根を積んで、命を延ばしたのか」
「私は昨晩、僧房に寄宿しました。僧が寿命経(金剛寿命陀羅尼経)を読むのを聞きました。ほかには何もありません」
相師はこれを讃えて言いました。
「これは仏法の不思議の力である。浅き智で量るものではない」
ただなんの気もなく経を読むのを聞いた功徳でさえこのとおりです。心をつくして書写し、受持した人の功徳ははかりしれない。そう語り伝えられています。
【原文】
巻6第48話 震旦童児聞寿命経延命語 第四十八
今昔物語集 巻6第48話 震旦童児聞寿命経延命語 第四十八 今昔、震旦の唐の玄宗の代に、開元の末に、一人の相師有り。人の命の長短を知る事、掌を指すが如し。 而る間、相師、資聖寺と云ふ寺の門の内に有て聞くに、門の外に人の音有り。其の音、只今今日許の命有り。
【翻訳】 西村由紀子
【校正】 西村由紀子・草野真一
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