巻六第四十七話 君はそのうち死ぬだろうと言われた人の話

巻六(全)

巻6第47話 震旦張李通書写薬師経延命語 第四十七

今は昔、震旦(中国)の唐の時代、張李通という人がありました。二十七歳になったとき、相師(占い師)にいわれました。
「君の命はとても短い。三十一を越すことはない」
李通はこれを聞いて、かぎりなく歎き悲しみました。

そのころ、邁公(まいこう)という人がありました。李通は彼に会って、このことを語って歎きました。邁公は言いました。
「長寿の方法がある。誠の心をつくして、これを書写し、受持しなさい」
玄奘三蔵が翻訳した薬師経一巻を授けました。
李通は答えました。
「私はとても忙しく、経を読誦するのは困難です。しかし、命のことはとても恐ろしいので、とりあえず書写してみます」
経巻を受け取り、心をつくしてこれを書写しました。たいへんに忙しかったので、書写することができたのは一巻のみでした。

そのころ、相師が李通を見て言いました。
「君はどんな功徳を得たのか。命は三十年延びている。まったく希有なことだ」
「私は邁公の教えにしたがい、薬師経一巻を書写しました。その他に善根を積むようなことはしていません」
相師はこれを聞き、「まさに経の力だ」と悟り、去りました。

このことを聞いて、心を至した人が多かったと語り伝えられています。

薬師寺(奈良市)

【原文】

巻6第47話 震旦張李通書写薬師経延命語 第四十七
今昔物語集 巻6第47話 震旦張李通書写薬師経延命語 第四十七 今昔、震旦の唐の代に、張の李通と云ふ人有けり。生年二十七歳と云ふ年、相師有て、李通を見て云く、「君の命、極て短し。三十一を過ぐべからず」と。李通、此の事を聞て、歎き悲む事限無し。

【翻訳】 西村由紀子

【校正】 西村由紀子・草野真一

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