巻六第十四話 身代わりに雷を受けた仏の話

巻六(全)

巻6第14話 震旦幽州都督張亮値雷依仏助存命語 第十四

今は昔、震旦の幽州の都督(地方官)に張亮という人がありました。府の長吏(官吏)でした。仏法を貴び、信じていました。

この人が以前、寺に入ったとき、仏の身長を計ってみると、自分と同じでした。これを厚く供養しました。
寺に詣で、仏の御前に居るとき、二人の従者を庭に置いていました。そのとき、雷鳴がとどろきました。雷の音を恐れ、この自分と同じ身長の仏を、心を尽くして念じました。

雷電が霹靂して、寺の柱を震わせました。従者の一人が走り出し、階段のところで死にました。雷が落ちて柱が壊れ、張亮の額に当たりました。
張亮の額が傷つきました。ところが、まったく痛くはありませんでした。人を呼んで見せると、木が当たったところに、赤い痕ができていました。しかし、痛みはありません。柱を見ると、木の半分が裂けて地に落ちて、人が斧で裂き砕いたようです。

張亮が仏の御許に詣でて、仏を見ると、仏の額に大きな痕ができていました。これは張亮の痕と同じ場所でした。張亮はこれを見て思いました。
「私の急難を救うために、仏が私と代わってくれたのだ」
言いようもなく深く心に響きました。その寺の多くの僧たちもこれを見て、貴び心を動かされました。

張亮は家に帰り、多くの人に語って、ますます仏を信じるようになりました。幽州の人はみな、これを貴く思い、皆その寺に参り、仏の額の痕を見て、礼拝し恭敬したと語り伝えられています。

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【原文】

巻6第14話 震旦幽州都督張亮値雷依仏助存命語 第十四
今昔物語集 巻6第14話 震旦幽州都督張亮値雷依仏助存命語 第十四 今昔、震旦の□□の代に、幽州の都督に□の張亮と云ふ人有けり。府の長吏と有り。心に仏法を貴び信ず。 其の人、昔、寺に入て、仏の長を計て、我が身と等く在ますを見て、此れを供養し奉りけり。寺に詣でて、仏の御前に居たる間に、二人の従者有り。皆庭に立てり。...

【翻訳】 西村由紀子

【校正】 西村由紀子・草野真一

【協力】 草野真一

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