巻二第三十八話 盲目の物乞いに生まれ変わった大金持ちの話

巻二(全)

巻2第38話 天竺祖子二人長者慳貪語 第(卅八)

今は昔、天竺(インド)に親子の長者がありました。父も子もともに家は大いに富み、ゆたかな財宝をもっていました。しかし、たいへんな慳貪(吝嗇)で、施の心は全くありませんでした。たまに物乞いが家に来るようなことがあっても、門の内には入れず、使用人に追い払わせていました。

しばらくして、父の長者が病にかかり、いくばくもしないうちに亡くなりました。その国に、盲目の物乞いの女がありました。父の長者は、その物乞いの腹に宿りました。月が満ちて、お産になりました。子もまた盲目でした。年月がたち、子は七歳になりました。母も子もともに物乞いをして暮らしました。

ある日、子が物乞いをしながら歩いているうちに、かの長者の家に至りました。そのとき、守門の者は用があって外していて、追い立てる人がありませんでした。物乞いは家の内に入り、庭の南側に立ちました。長者はこれを見るとたいへんに怒り、物乞いを追い払わせました。

ちょうどそのとき、守門の者が帰ってきました。物乞いを見ると、腕をひっつかんで遠くに投げ遣りました。そのとき、物乞いは地に倒れ、腕は折れ、頭は破れました(大怪我を負った)。声をあげて叫ぶと、母の物乞いが子の声を聞いてやってきて、このありさまを見て、子を抱いて泣き叫びました。

そのとき、仏はこれをあわれみ、物乞いの元にやってきて告げました。
「よくききなさい。おまえは長者の父である。前生に慳貪が深かったため、人に物を施す心を持たず、物乞いを追い出していた。それゆえ、この報いを得たのだ。この苦はまだ軽いが、この後、地獄に堕ちて無量劫(一劫は宇宙が誕生し消滅する時間)の間、苦を受けることになるだろう。あわれなことだ」
近づいて頭をなでると、物乞いのふたつの目は開き、ものが見えるようになりました。

仏が説き知らせてくれたことを聞いて思いました。
「私はこの長者の父だったとき、慳貪深く、施の心を持たず、物乞いを追い出していた。その罪によって、今、自分の子の家に来て、この苦を受けるのだ」
物乞いはこれを悔い悲しみ、仏に礼拝恭敬して懺悔しました。罪を免れる果報を得たと語り伝えられています。

【原文】

巻2第38話 天竺祖子二人長者慳貪語 第(卅八)
今昔物語集 巻2第38話 天竺祖子二人長者慳貪語 第(卅八) 底本、欠文。標題もなし。底本付録「本文補遺」の鈴鹿本により補う。 今昔、天竺に二人長者有り。祖子(おやこ)也。父も子も共に、家、大に富て、財宝豊也。但し、慳貪深くして、敢て施の心なし。自然ら、乞丐、家に来れば、門の内に入れずして、人を以て追ひ掃はす。

【翻訳】 草野真一

巻一第三十二話 最後の衣を布施した物乞い夫婦の話
巻1第32話 舎衛国勝義依施得富貴語 第卅二今は昔、天竺の舎衛国(しゃえいこく、コーサラ国)には九億の家がありました。その中に勝義という人が住んでいました。とても貧しく、塵ほどの貯えもありませんでした。夫妻そろって国内の九億の家をたずねて...
巻二第二十四話 親に捨てられ物乞いの妻となっても城に暮らした娘の話
巻2第24話 波斯匿王娘善光女語 第(廿四)今は昔、舎衛国(コーサラ国。祇園精舎がある)の波斯匿王(プラセーナジット王)に一人の娘がありました。善光女といいます。端正で美麗で、世に並ぶ者はありませんでした。彼女の身体はは光り耀き、あたり...

コメント

タイトルとURLをコピーしました